本作「ノスタルジア」を一言で表現すると、アンドレイ・タルコフスキー監督の望郷の念を描写したものであろう。
ロシアを去り、自由を求めてイタリアに渡ったものの故郷を完全に忘れることなんて出来るはずがない。それにタルコフスキーの映画作りのベースはロシア時代にある。それを素直に表現していると思う。
タルコフスキー監督作品を観たことのある方なら、本作に既視感があるはず。時折映像がモノクロに変わったり、川の水の流れ、母の追憶のシーンなど、過去作品のセルフオマージュが多々あった。
「ストーカー」「鏡」「惑星ソラリス」を観てから、本作を観ると味わいが違うはずだ。
相変わらず芸術性溢れる映画作りであるが、本作では政治色もある。イタリアで自由を得た監督が、早速社会主義を避難している。水の魔術師タルコフスキーが火を使ったラスト近くのシークエンスなんかは、社会主義の崩壊を願っている監督自身の心情を表現したものだと勝手に思ってます。
もう一つ印象に残ったのが、テオ・アンゲロプロス監督作品へのオマージュである。
ラスト近くの集会での階段に立つ人の並びは、どこからどう見てもアンゲロプロス監督作品の特徴と同じである。
それにしても詩的で美しい作品でした。劇中で、詩は翻訳しても良さは伝わらないという意味のセリフがありました。でも映像なら詩が伝わるような気がしてならない。
良い作品でした。しかしながら、ロシア時代の作品が偉大すぎるために新たなサプライズを感じることが出来ませんでした。
そこが少し残念です。