ぶつ切りに近いカットや、かなり挑発的なカメラワークはまるでゴダールの作品を観ているようだった。
レオス・カラックス監督の名前を世界に知らしめた作品で、個人的にはアレックス三部作の中でも圧倒的にこの作品が好きだ。
二十代の始めにこの映画に出会い、その芸術的なセンスの高さに衝撃を受けたことを今でも覚えている。今観るとかなり荒っぽい印象は受ける。これは若さがないと作れない作品だし、また若い感受性がないとなかなか理解できない作品だろうなと感じた。
設定は近未来のパリで、彗星が近づいているために異常気象が続き、また愛のないセックスによる感染症で死亡者が多発しているらしい。
確かにSFっぽい雰囲気はあるものの、この映画が描くのは疾走する愛の姿だ。
一応サスペンスの要素もあるものの、正直この作品はストーリーを追うものではないと思った。五感で楽しむ作品とも言うべきか。
とにかくシーンのひとつひとつがスタイリッシュで印象に残る。
アレックスを演じるドニ・ラヴァンは爬虫類顔で全然ハンサムではないのだが、それでも不思議な魅力がある。壊れやすい青年の心を見事に表現していると思った。
アレックスがデヴィッド・ボウイの『モダンラブ』に合わせて夜の町を疾走する姿や、勢いに任せて車をひっくり返す姿、また器用にコインを操る姿はとても印象に残った。
そしてアレックスが一目惚れした相手アンナを演じたジュリエット・ビノシュ。
おそらくこれほどキュートな彼女の姿を観られる作品は他にないと思う。
彼女が自分の前髪に息を吹き掛ける姿はとてつもなく可愛い。
彼女の仕草のひとつひとつがどれも画になる。
アレックスとアンナのシーンも印象的なものが多い。
アレックスがアンナを抱えて夜の通りを渡り、向いのホテルへ連れていくシーンや、二人がじゃれ合ってシェービングクリームを掛け合うシーンはとても心に残る。
二人の間には親密な空気感が生まれるが、アンナが愛しているのは自分の父親ほども年の離れたマルクだ。
アレックスは何度もその事実を思い知らされることになる。
アレックスがアンナに囁く「君とすれ違ったら、世界全体とすれ違うことになる」は名台詞だと思った。
しかし、最後までアンナの気持ちはマルクに向いたままだ。それがアレックスに待っている悲劇的な運命を思えば切ない。
もう一人この映画で忘れられないのが、アレックスに別れを告げられながらも、彼に献身的に尽くすリーズの存在だ。
リーズを演じたジュリー・デルピーもジュリエット・ビノシュに負けず劣らず魅力的だ。
個人的にはこの映画で一番印象に残っているのが、地下鉄に飛び込んだアレックスを追いかけて、間一髪間に合わずに電車の窓越しにアレックスを見つめるリーズの表情だ。
彼女の存在がこの映画の魅力を底上げしていることは間違いない。
アンナが両手を拡げながら滑走路を走るラストシーンも映画史に残る名シーンだろう。