東映やくざ映画が仁侠から実録に代わったが、実録とはいうものの大半はフィクションだと言う。実在の事件や人物を取り上げても、フィクションだと断って置かないと、題材がコワいお兄さん方なので、後でもめたら難儀なことであるだろうし。
この作品での石川力男も実在の人物である。冒頭で彼の親族の証言を聞くことができる。だが、彼に関して分からないところが多くて、大半が創作だということだ。
無法者の暗黒街とて、彼らの掟がある。その掟をやぶり自分のその場の思いつきや感情で行動してしまい、自分の親分の立場を危うくしてしまうし、自分の立場とて危うい。後でどうなるのかを考えずにパッと行動する狂気。冒頭の親族の証言に「頭は良かった」というのが信じられない狂暴で無謀である。
映画のアウトローは法律の外にいる迷惑な人間だが、主人公であるからある程度の観客の共感も得る。ところが本作の石川力男の行動には一ミリも共感を呼ばない。何故、自分をこんなに追い詰める行動ばっかりするのか、理解をはるかに超えている。親族の証言で幼い頃、泣きだすと二時間でも三時間でも泣き続けた」というのがある。彼が思いつくままに行動するのはその子供っぽさが大人になっても抜けきらないのだろうと想像するが、彼のメチャクチャさは破天荒だ。予告編では自由奔放と字幕が出るが、こういうのに自由奔放というのは違和感がある。
それなのに映画は面白い。病み上がりの渡哲也の鬼気迫る演技、特に亡くなった妻の骨をかじりながら、親分に要求する場面は異様な雰囲気を醸し出す。
深作欣二監督も荒っぽく勢いだけで突っ走る演出で、主人公への共感はなんのその、彼の破滅人生を見せる。やっぱり深作欣二監督は実録路線がぴったり合っていて、この分野でこそ才能が発揮される。
今回はシナリオが笠原和夫ではない。彼ならばある程度の共感を得る脚本を書くかも知れないなあ、とちょっと思った。