市村座の女形役者、お山、太夫である中村雪之丞(長谷川一夫)が雪の降る舞台で舞っている。諸々の面々がこの舞台を観劇している。
スリの男ムク(林成年) を連れた色気のない姉御のお初(山本富士子)は「ちぇ」と言ったり、「畜生」と言ったりして愉しい。太夫に刃物を向けたかと思えば、突如として逃げ出し、遠くへ消えていく。また、川に飛び込むときに「河童」を名乗るなど、小悪魔と道化を兼ねたキュートさをみせている。
歌舞伎の舞台と演技は伝染する。菊之丞(市川中車)は雪之丞の因果や仇などを呑み込み、彼女と共演している。師匠の一松斎(浜村純)の道場で雪之丞と兄弟でもあった平馬(船越英二)は、闇夜に乗じて雪之丞に襲い掛かる。そこに闇太郎(長谷川一夫)も現れる。こうした仕掛けは、舞台仕掛けであり、アクションやセリフも舞台がかっている。そして刀と言葉が交わされる。
その背景となる闇は濃い。闇太郎は神出鬼没に画面に見え隠れし、闇太郎と対照をなす昼太郎(市川雷蔵)は、僻みっぽく、スターである雪之丞と同じ顔をした闇の親分である闇太郎を妬んでもいる。映画的にメタなつぶやきを、塀の上に立って、板葺屋根の路地で、あるいは川船の上でつぶやいている。
威張っており御前とも御殿とも呼ばれる三斎(中村鴈治郎)が太夫の真の仇である。その屋敷へと太夫は招かれている。川口屋(伊達三郎)や広海屋(柳永二郎)といった悪者顔の者たちもそれぞれに刺され、毒をあおり、首を絞められ応報といった具合に崩じていく。
浪路(若尾文子)と太夫は、一時ではあるが対面している。蝋燭の灯が画面左下手前に揺らめている。太夫の心情や思惑が時にナレーションによって暴露される。ときにそうした心情は、人物のセリフにオーバーラップし、セリフをかき消していく。また、闇太郎は塀の前や後ろで役者のように独り言を口走っている。こうした仕掛けもまた舞台的であり、トリックのような撮影とあいまって不可思議な幻想へと観客を誘う。
おかしな男(勝新太郎)は老婆を縛り上げ、押し入れに押し入れてしまう。米の買い占めによる相場の高騰や打ち壊しなどの江戸後期の社会現象もとらえつつ、荒ぶる民衆の瞬時の顔が大写しにされる。老婆や民衆は、こうした仕掛けが満載された舞台に立っていたのだろうか。