「魔女の宅急便」から三年、豚のパイロットが活躍する「紅の豚」が公開されました。舞台は1920年代のイタリア・アドリア海。空賊どもが我が物顔で跋扈してをります。マンマユート団もそのひとつで、幼児15人を攫ふなどのワルですが、ボスの考へで、仲間外れを出すと可哀想だと云ふ理由で、全員を誘拐する中途半端なヒューマニスト。子供たちも「小父さんたち、悪人?」「わたしたち人質なのよね」などと能天気であります。
マンマユート団の対応を依頼されたのが、賞金稼ぎのポルコ・ロッソ。現在は豚の姿をしてゐますが、嘗ては普通の人間で空軍のエースパイロットと云ふ経歴。何故豚になつたのかは詳しい説明が有りません。豚ながらサングラスをかけ、森山周一郎さんの渋い声で中中カッコイイ。
あつさりマンマユート団を片付け、馴染みの女性ジーナが営む店へ行くと、メリケン野郎のカーチスと云ふ同業者と知り合ひます。カーチスは伝説のパイロット・ポルコに勝つて、ナムバアワンになりたいらしいが、ポルコは愛機サボイアがオーバーホールが必要なので、それどころではありません。
で、整備のためミラノの昔馴染み整備工・ピッコロを訪れます。ところがピッコロおやぢは、17歳の孫娘フィオに任せると云ふ。不安を覚えながらも彼女に任せるポルコでした。実際の作業もピッコロの親戚の女性ばかりで、男は一人もゐません。お祖母ちやんたちさへ孫に小遣ひやりたさに参加しました。
修理の終つた艇で、フィオを連れてアドリア海に戻るポルコ。そこでは、思想犯扱ひで逮捕しやうとする秘密警察、復帰を求める空軍、そしてマンマユート団ら空賊連合が待ち構へてゐます。自分が整備した艇を破壊せんとする空賊たちにフィオが怒り、その様子を見てゐたカーチスが彼女に一目惚れ、フィオを賭けてポルコと一騎打ちする事になりました......
やはり航空活劇は面白い。宮崎駿監督特有の「飛翔」の表現が心地良く、特に試運転なしでイキナリ発信するサボイアの動きが良い。川から離水する瞬間の爽快感は最高であります。唐突な感想ですが、同じヒコーキ野郎である円谷英二が、若し宮崎駿作品に接したら屹度気に入つたのではないかと思ひました。本作の中で「ハワイ・マレー沖海戦」を意識したカットがあつたと思ふのですが、気のせいですかな。
ストオリイも明快単純で、後年のやうな難解なものではないので、割と万人向けではないかと存じます。秘かにポルコを愛する謎めいたジーン、駿ヒロインの系譜を継ぐフィオ、「ラピュタ」のドーラ一家を思はせるマンマユート団のボス、孫娘に「手を出すなよ」と云ひながら放任するピッコロおやぢ、ドナルド・レーガンみたいに映画スタアと大統領を目指すライヷル・カーチスなど、サブキャラクタアも性格付けが丁寧。皆良い奴です。
ラストが色色と想像できるやうな、思はせぶりで終るのは、監督自身が続篇に意欲を燃やしてゐたからださうです。今となつては難しいでせうなあ。
序でに云ふと、わたくしが好きなジブリ作品は、「①ナウシカ②ラピュタ③豚(次点)もののけ」で、本作は可也のお気に入りでございます。