未来のことであるらしい.いろんな意味でジェロームになりきったビンセント(イーサン・ホーク)は清潔は信仰であるとも告白している.キーボードには文字が並び,「ガタカ」と呼ばれるエリート企業のオフィスでは従業員たちが同じ方向に向かって机を並べており,出社する労働者は,指紋認証でエントリーするらしく,認証機械に並びながら前へ前へと進んでいく.
ビンセントは,出生児の検査によって30年の寿命がほぼ定まっている.弟のアントンは優性な遺伝子によって出生する.兄弟は海で度胸比べと言って泳いでいる.その泳ぎは,精子の遊泳を象徴しているのだろうか,終盤に成人となった兄弟は,再び泳ぎ始める.
ビンセントの社会生活はトイレ清掃から開始し,ガタカの清掃員までたどり着いている.毛髪,唾液,尿,血液など人間のカケラは遺伝子情報を有しており,虹彩や指紋などは人間の個を特定する紋章にもなっている.それらを偽り,差し替え,改竄し,人間と個人を誤魔化すことに,寿命を超えたビンセントは賭けている.その賭けのために契約し,遺伝子や認証情報を提供するジェローム(ジュード・ロウ)がいる.彼は事故で下半身を動かすことができなくなったエリートでもある.彼がビンセントにまさしく献身的に奉仕する動機は複雑でもある.彼は残りの半生をビンセントに同化し,宇宙へ飛んでいくことで昇華し,ジェロームになったビンセントを生きようとしているのだろうか,彼は彼なりに必死でもある.そして証拠隠滅用の焼却炉に自らを投入して焼かれていく.ガタカの従業員でもあるアイリーン(ユマ・サーマン)も複雑である.中途半端なエリートである彼女は,半端な自分に負い目を感じながらも,優性な遺伝子を崇拝する社会に適合している.彼女の前にビンセントやジェロームが現れることで,彼女も揺れ始めており,ガタカを体現したような上司(ゴア・ヴィダル)でさえ,不適正を示し始めてもいる.
近視は不適正の最たる指標でもある.ビンセントの近視は,眼鏡として彼の目の前に見えており,それは清掃員であった彼がガラス越しにガタカを見る視線と重ねられる.星が塵のように,いわばゴミのように散りばめられた宇宙を見つめる視線は,やがてそのガラスを越えて宇宙へと同化していくようにも感じられる.