ゲームのようなCIAのスパイ活動が行われている世界各地の音楽がサンプリングされていく.こうした音楽にアガるが,そこで行われているのは,やや一方的な殺戮行為である.香港,ワシントンD.C.,ベトナムはダナン,ラオス,東独,ベイルート,蘇州刑務所,澎湖諸島など各地で多様な情勢があり,それに応じた殺人や拘束といった謀略がめぐらされている.それらの作戦を俯瞰できるところにCIAのミュアー(ロバート・レッドフォード)がおり,彼の影のようにしてビショップ(ブラッド・ピット)がいる.ミュアーの手先で手下としてビショップはいるが,そのミュアーも組織や国家の駒にすぎない.それでもビショップは,狙撃兵としてラオスの武装組織の要人を暗殺し,中東では多数の犠牲者を出した義勇軍によるビル爆破にも巻き込まれていく.ビショップは,アセット(情報提供者)のスカウトとしても有能であり,他国に国籍を持つ者も含め多くの民間人たちを自国の国益のために,危険な情勢に巻き込んでいく.その自覚のなさは,彼が敵対的な勢力への共感にも通じていく.ビショップはミュアーの影であるから,ビショップの同情的な姿は,そのままミュアーの後ろめたさや自らがなしている国家的活動の欺瞞の告発や不満がビショップを通して現れてきたとも言える.
ミュアーは,退職パーティーを控えており,ビショップの手前勝手な活動によってCIA内部からの追及を受けている.この追及を交わしながら,スパイの嫌疑で拘束され,処刑されようとしているビショップを救い出すミッションが降ってくる.そのミッションのスリルと過去のスパイゲームの内情に見える動機が物語を駆動させている.
エリザベス(キャサリン・マコーマック)という女性も見え,富士フィルムの広告塔やカメラを構えたビショップなど,語りのテンポ感も心地よい.また,ミュアーの表情や仕草の狡猾も見どころのひとつとなっている.