アニメCGの名作「トイ・ストーリー」を生んだディズニー=ピクサーアニメーションスタジオの最新作です。今度の主人公はオモチャならぬモンスターです。彼らは子供部屋のクローゼットの中に潜んでいて、毎夜子供たちを驚かすんですって! でも、モンスターってそもそも何だっけ? モンスターという概念に乏しい日本の私達にとっては、今ひとつピンと来ないものがあるのですが・・・。
モンスターたちが住むモンスター・シティー最大の企業、モンスターズ・インクは、「人間の子供たちの悲鳴」を集め、モンスター・シティーにエネルギーを供給することが仕事でした。彼らは世界中の子供部屋に通じるクローゼットのドアから侵入し、寝ている子供たちを脅かすのでした。
「トンネルの向こうは不思議の町でした」とは、宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」ですが、今回は「扉の向こうはモンスターの世界でした」ってことになるのでしょうか? そうそう、ドアと言えば「ドラえもん」の「どこでもドア」を思い出しますよね。そういうわけで、日本アニメになじんだ目から見るとこの作品、発想にあまり新味が感じられないのです。でも、このことは作り手も十分に意識しているらしく、ところどころに日本情緒を盛り込むサービスを忘れてはいません。
モンスターたちは実際に子供たちに描いてもらった絵を元にデザインしたそうです。なるほど、どれもオモチャみたいに可愛くて愛嬌があり、造形的には確かに子供向きに出来ています。でも、株式会社だとかエネルギー供給だとか、仕事の成績を競い合うとかの発想は明らかに大人のそれなのです。実に幼稚な(と言ったら失礼か?)デザインに対し、人間の大人社会そのまんまのモンスター世界の枠組みがなんだかしっくり来ません。
一方、映像技術は一段と向上しており、見ているうちにこれが全てCGだなんてまるで忘れてしまいました。特に主人公の毛むくじゃらモンスター、サリーの毛並みの動きとか質感はまるで実写のようです。また、彼らの目や口元の微妙な動きは生身の俳優の演技に少しも引けを取りません。ただ、モンスターの表情が活き活きと描かれているのに対し、モンスター世界に迷い込んだ生身の子供の表情に今ひとつ不自然さを感じてしまったのも事実。架空の生き物と生身の人間の区別をCGで見せるのは、なかなか大変な仕事のようですね。
人間を脅かすのが仕事のはずのモンスターが、モンスター世界に迷い込んでしまった子供に愛情を感じてしまうという、いかにもアメリカらしいヒューマニズムがホロリとさせます。見かけは化け物だけど、心は優しく力持ちなのですね。でも、いくら優しくても子供を脅かすことをやめてしまってはモンスターの意味がなくなっちゃうのでは? そう言う意味でこの結末は安易に流れすぎた感があり、ちょっと興ざめです。
(2002/5/2 記)