足の不自由な少女とある青年の恋を描いた物語。
印象的なカットの繋ぎ目や、含みを持たせるようなシーンのひとつひとつが心に残る、まさに映画的な面白さを持った作品だと思った。
ただ登場人物に共感するのが難しい癖のある作品だとも思った。
恒夫に料理を褒められた時には、おそらくジョゼは彼に好意を抱いていたのだろう。
彼女の口の悪さは照れ隠しでもある。
彼女が箸に刺した蓮根を恒夫に味見させる姿だけで、彼女の恒夫に対する好意が分かる演出はなかなかニクい。
一方、恒夫の方は何を思っているのかが分かりにくい。
恒夫がジョゼの家に出入りするようになったのは、彼女が作った料理があまりにも美味しかったからなのだが、もちろんそれだけではない。しかし恒夫がジョゼに抱く感情は恋とも違うと思った。
彼は優しく誠実そうに見えるが、女性関係にはだらしない。
彼は大学の同期の香苗に好意を抱いており、実際に彼女と関係を持つことになるのだが、真剣に彼女を愛しているのかは疑問だ。
どこか恒夫には空虚な部分がある。
ジョゼは祖母と二人暮らしだが、祖母は彼女を「壊れもん」だと言って、近隣の人々から彼女を隠すように生きている。
ジョゼは外の世界で見たいものがたくさんあるのだと恒夫に話す。
恒夫はそんなジョゼのために、乳母車にキックボードを取り付けて改造し、彼女を乗せて町に繰り出す。
このシーンの疾走感はくるりの音楽とも合っていてとても心地よかった。
しかし祖母は恒夫の勝手な行動を許さず、彼に家への出入り禁止を言い渡す。
本当にジョゼのことを想っているのから、恒夫はもっと色々な問題に立ち向かうべきだった。
しかし彼は意気地無しで、抱えきれない問題から逃げてしまう。
彼の優しさは弱さでもあると思った。
やがて祖母が亡くなり、ひとりぼっちになったジョゼの元に恒夫は再び現れる。
ジョゼは恒夫に側にいて欲しいのに素直になれず、思わず「帰れ」と怒鳴ってしまう。
その言葉を聞いてすぐに引き下がってしまう恒夫。
「帰れと言われて本当に帰ろうとするやつは帰れ!」
この言葉のあとに初めてジョゼは本心を恒夫に打ち明ける。
側にいて欲しいと。
恒夫もジョゼの側にずっといると誓うが、それが長続きしないことは冒頭で分かっている。
それでも二人が寄り添う姿はとても心にジーンと来るものはあった。
ちなみにジョゼの本名はクミコで、ジョゼとは彼女の愛読書サガンの小説の主人公の名前だ。
タイトルにある虎は、彼女が好きな人が出来たら一緒に見たいと願っていた一番怖いもの。
そしてラブホテルの部屋の照明をつけると泳ぎ出す光の魚たち。
最後まで成長出来ない恒夫の姿には幻滅させられた。
彼は結局香苗とやり直す。お互いに心に弱さを抱えた者同士だ。
ジョゼを抱え切れなかった自分の弱さに涙を流す恒夫の姿が印象的だった。
対称的にジョゼは逞しく生きていく。
恒夫と付き合いだしてからは乳母車を捨ててしまった彼女だが、別れてからは電動の車椅子で町を颯爽と走っていく。
どことなく清潔感の欠ける姿だったジョゼだが、ラストシーンでは少し小綺麗になっているように感じた。
しかし彼女が焼いている魚は一尾だけだし、コップに差してある歯ブラシも一本だけだったから、彼女は相変わらず一人なのだろう。
それでも何か明るい未来を感じさせるようなラストではあった。