時代の変化に対応できない者はこうなるという一例かな
自分は本作のリアルタイムの世代ではないが、幸いなことにはリバイバル上映で映画館で鑑賞できた。その前にテレビ放映でも観ていたがやはり映画館で観るとテレビで観るのとはインパクトが違う。まあもっともDVDやブルーレイで観るメリットは映像特典が付いていることでどっちもどっちかな。この前のポール・ニューマン特集では本作だけ見逃してしまったのは残念。
「実話に近い物語」ということわりはなかなか見ない。実話に基づく物語というのはよく字幕に出てくるが、こういう例はこの映画以外では思い出せない。そういう断りをしているのは実在した人物を主人公にしているが、中身は自由に話を膨らませて脚色しましたということなのだろう。この西部劇の定型から外れたものになっているのはいかにもアメリカン・ニューシネマ時代の映画と言えるだろう。
冒頭でサイレント映画がセピア調の色調で若き主人公たちの列車強盗の一幕を描いているのを観ると、このノスタルジックな雰囲気は西部劇のオマージュかと思いきやそうではなかった。
だいたいこの映画以前の西部劇のヒーローと言えばジョン・ウェインなのだが、ヒーローと言えば敵役を見事にやっつけるカッコよさで描かれるが、この映画の主人公ふたりはと言えば追手から逃げ回っているおよそ今までのヒーローにはあるまじき行為なのである。カッコ悪いところが魅力というのがニューシネマなのであった。
サンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)は、ポーカーの相手とトラブルになる。喧嘩腰の相手が自分が怒っている相手がサンダンス・キッドと知るやいなや震えるのだから、主人公が弱いわけではないのだ。でも逃げ回っていて返り討ちにできないこの主人公ふたりはジョン・ウェインの西部劇なら考えられないことである。まあジェームズ・スチュワートならこういうキャラクターもあり得るかもしれないけれど。
こういう体たらくだからラストは銃撃を受けて死ぬことになるのだが、他のニューシネマのような後味の悪さを感じさせないつくりになっている。サンダンスのガール・フレンドのエッタ(キャサリン・ロス)がブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)との自転車に乗る場面、映画史上に残る名場面の美しさは素晴らしい。名曲「雨に濡れても」も秀逸なのもこのジョージ・ロイ・ヒルの演出を盛り上げてしまうのだ。また三人が町で遊ぶ場面も冒頭のようなセピア調の写真を数ショット積み重ねるのもこれまたノスタルジックな雰囲気を出している。
また喜劇調なところもあってことに列車強盗をする場面はドタバタ喜劇風である。
こういった雰囲気にしているので、最期で主人公が散ってしまう悲劇で観る者の気持ちを暗澹なものにしない。このラスト場面もふたりが銃弾に倒れるところを見せずに、ストップモーションで処理したところもうまいところだと思えた。