同性愛をテーマにしたちょっと変わった映画、しかも美形なオダギリジョー君出演となれば、好奇心もウズウズ・・・そんな不純な動機で見に行ったのが申しわけないくらい、美しさに溢れた映画でした。いやはや、不意打ちの感動作、とはこのことです。
物語の主人公は、小さな塗装会社で働くしがないOL沙織。演じているのは強烈な個性を持つ今が旬の柴咲コウですが、今回は長い髪をひっつめ、いつも眉間にシワを寄せている陰気な女の子の役です。ある日沙織の職場にハンサムな青年・春彦が訪ねて来て、彼女の父・照雄が末期がんに冒され余命いくばくもないと言うのです。彼は照雄の若い愛人で、愛する人のために何とか一人娘との対面を実現させようとしていたのでした。
それにしても、あのオダギリジョー君が「大切な人」と呼ぶ照雄って、一体どんな人物なのでしょう? かつてゲイバー「卑弥呼」のママとして銀座に君臨し、今は店をたたんで海辺にゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を構えひっそりと暮らす年老いたゲイ、しかも若い頃に幼い沙織と妻を捨てたという、暗い過去を背負った人物・・・田中泯はそんな難しいキャラクターに見事にハマっています。病人の役なのでほとんど動きがないのに、その存在感とカリスマ性は圧倒的。優れた舞踏家というのは、じっとしていても肉体の美しさがにじみ出てくるものなのかなぁ? 彼ならオダギリジョー君のような若くて美しい愛人がいてもおかしくないよな~と、ひとり納得してしまいました。それにしてもオダギリ君の立ち姿はなんて奇麗なんでしょう! 自らを流れにまかせるしかない晴彦を切なく、それでいてどこかあっけらかんと演じていて好感度はますますアップです(^_^)。
さて、沙織は幼い自分と母を捨てた父を許せずにいましたが、亡くなった母の治療費返済のためと割り切って、渋々メゾン・ド・ヒミコを訪ねることを決心します。そこには世間から受け入れられないまま、年老いてしまったおじさんたちが肩を寄せ合って生活していました。最初、ゲイと父を嫌悪していた沙織ですが、心優しく愛に溢れたおじさんたちの心根に触れ、頑なな心が次第に解きほぐされてゆくのでした。
というわけでこの映画は、同性愛という特殊なモチーフを取り上げてはいるものの、それらは物語のシチュエーションに過ぎず、まずは「老いと死」「愛と赦し」を描いていて秀逸です。特に沙織が病床の父親をなじった時、彼が返した言葉に思わず涙。人と人の間にはどうしても理解し合えなかったり、受け入れられないことがあるけれど、そんな壁さえも越えてしまうほど強靭で絶対的な愛が存在することを、この映画は見せてくれたような気がします。
また、この映画はロケが素晴らしいんですね。撮影は静岡県御前崎市にあるカフェで行われたそうですが、そのロマンチックな外観はもちろんのこと、乙女チックな内装やアンティークな家具も素敵! 海の見えるテラスに干された洗濯物とか、窓からプールの見えるダイニングでのブランチとか、お盆の提灯の仄かな灯りとか、ちょっとした情景が「これぞ地上の天国?」と思うほどに美しく撮影されています。うーん、こんな老人ホームなら私も入所したいなぁ!
(2005/9/23 記)