ダージリン急行で旅するなんて、いかにもインド好きする響きに憧れるが、兄弟3人きりとなると話しは別で、できれば御免こうむりたい。目的もよく分からぬまま、兄弟で鉄道旅行なんぞ楽しかろう筈もない。
しかし、スクリーンから漂うインドのサイケな毒気にやられたか、くだらないショッピングにバカ騒ぎ、アホな兄弟会議と、何だかんだで旅を満喫する3人が羨ましく見えて来るから不思議だ。
そのうちに旅の目的なんてどうでもよくなる。そして珍道中のひとつひとつに実は意味があることに気付かされる。近況や心の悩み、両親への想いについて、兄弟ゆえに理解し合える部分も多いだろうし、仲がいいから喧嘩だってできる。
果たして身内の絆は固いのだ。兄弟だけの旅も案外いいじゃないか。
「用事がなければどこへも行っていけないというわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」ー 内田百閒よろしく、これこそ旅の理想だとすれば、両手いっぱいに抱えたスーツケースを投げ出したその瞬間から、3人それぞれに自立した本当の旅が始まるということなんだろう。