時代背景が終戦前というのが恐ろしいが、ドイツから亡命したラングが祖国を敵にこのような映画を撮ること自体に大きな価値がある。ちなみに日本での初公開は1987年。
プラハ侵攻したナチスの死刑執行人ハイドリヒが登場する緊迫したシーンから始まる。手元の鞭を落とし拾わせる。このわずかなシーンだけでハイドリヒという実在の人物(公開前年38歳で暗殺)を描く。しかしハイドリヒは映画の冒頭で暗殺されてしまう。地下組織の暗殺者とその人物を無意識に匿った女性を軸とする物語。
レジスタンスとゲシュタポに第三のエミール・チャカ(EC)をスパイにして物語を面白くする。ゲシュタポが暗殺者が見つかるまで次々と市民を死刑にする過程で、医師である暗殺者が名乗り出るべきか逡巡し、彼を匿ったマーシャという女性の苦悩と勇気がこの映画のテーマだ。そして彼女とその家族、そして組織のプラハ人たちがゲシュタポに屈することなく戦う姿勢を示すシーンに強い感動を覚える。
ラング演出は際立っていて、特に影の使い方が恐ろしい。ゲシュタポの聞き取りで、人物の横に化け物のような影を配置するシーンや、マーシャの父親が射殺されるシーンで、横から影が次々に倒れるシーンなど、見どころ満載の映画である。
最後はスパイのエミールをレストランで罠にかけるが、このシーンに至るまで音楽は一切使われない。レストランで演奏する音楽だけが唯一のシーンで、ここでマーシャとエミールの会話は聞こえない。しかしこのマーシャの勇気ある行動で、エミールを暗殺者として陥れるプラハ市民の団結力が示される。
このようなことが実際に起こりうるかどうかはこの際問題ではない。決して降伏せず、自由を勝ち取るという強い意思を示すことがこの映画の価値なのだと思う。
そして「The End」の前に大きく「NOT」という文字を示したのは、まだ戦争が終わっていないことを示している。