ドキュメンタリータッチの社会派SF。最後まで目が離せない
『第9地区』
District 9
2009
アメリカ・南アフリカ・ニュージーランド
製作ウイングナット・フィルムズ
配給:トライスター、ギャガ
Can I see him?
Not a good idea
「彼に会えるの?」
「やめた方がいい」
エイリアンと接触した夫に会えるのと聞く妻。
その父親は会わない方がいいという。父親は巨大軍産複合体の幹部でパッとしないヴィカスを婿に取った。ドジを踏んだムコは忘れろと言う。その言い方には慇懃無礼で容赦がない。
突然南アフリカ・ヨハネスブルク上空に現れた巨大な宇宙船。彼らは指導者を失った被支配階級だけで構成された難民だった。その姿は二足歩行する甲殻類に似ていたので地球人は彼等を「大きいエビ(prawn)」と呼ぶ。
エイリアンは飢えており巨大軍産複合体MNUは彼等を第9地区と呼ぶ地域に閉じ込める。しかしどんどんエイリアンの人口が増加したため第10地区に移住させようとする計画が開始される。
その責任者はヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャールト・コプリー)。
ミドルネームに「ファン」がつくのはオランダにルーツを持つ南アメリカのアフリカーンスによくある姓。
「ファン」が表す「アホなアフリカーンス」の典型は「愚かで、不器用で無知で、無能」(IMDB)
典型的に無知で無能な下っ端役人である主人公がエイリアン移住計画に携わるうちに意外な運命に、、、
映画はドキュメンタリー風に始まる。複数の識者や証人、当事者の家族へのインタビューが絵空事ではないリアリティがある。
今も世界中にある難民キャンプ。移民や難民に対する差別がこの映画のアイデアの原点。SFアクション映画ではあるけれど「今も解決していない現実の問題だ」というメッセージが突きつけられて画面から目が離せない。
エイリアンの親子の愛、人間との友情。人種差別、兵器産業の止まることを知らない非人間的な欲望。
見た目や立場で差別してはならないという当たり前のメッセージが激しいアクションを通して描かれていく傑作。