チェジュに家を建てる.泥が見える.
建築事務所にはコンクリートブロックが積まれ,その上に建築模型が載っている.デザインに凝ってしまう建築士のスンミン(オム・テウン)がそこにいる.ソヨン(ハン・ガイン)が彼の元へ訪れると,瞬時にして過去に遡る.近い過去とはいえ,そこには懐かしいような街と文物が見えている.ポケベル,フィルムカメラ,ポータブルCDプレイヤーなど,今から見れば旧式となってしまったパソコンでも自慢げに操っているスンミン(イ・ジェフン)の先輩も見えている.HD容量もギガ程度で学生は無限を感じ,ヘアスプレーが怪しげな光を頭髪に与えてもいる.「建築学概論」という授業で,スンミンとソヨン(スジ)は出会う.その授業を通じて,二人は淡い恋仲に陥るだけでなく,ソウルを発見する.ソウルの街には坂があり,木が立ち,路地があり,素敵な家がある.中心から離れた「遠いところ」にも街がある.住みたいところに行ってみようとソウルの中を旅することもある.ましてや淡い仲にある二人のことであるから,街の風景は二人にとってこれまでと違ったどこかになりつつある.ソヨンはお気に入りの空家に立ち入り,その場を愛でようとしている.
今はもう市場の再開発の問題がある.スンミンの母はその問題を食らおうとしている.ソヨンの父も病院にいて,ソヨンはかつてチェジュで尊ばれたピアノはもう弾かないという.「こんな人生糞食らえ」ともソヨンは言う.アナウンサーを目指し,金持ちと結婚するという夢を見ていたソヨンは,夢を叶えたり,叶えなかったりする.11月11日の誕生日にはわかめスープを飲んでいる.思い入れのあるチェジュの家は,スンミンの設計によって新たなデザインを与えられ,海縁で新たに息づこうとしている.屋根の上にも草が生えている.石が積まれている.大きなピアノ部屋がこの家に組み込まれようとする.少しだけ,現地の土俗的な流転へとソヨンが巻き込まれていく予感がある.