美味しいマカロンを食べさせてくれる名作。
ネタバレ
キャロル・リード監督の遺作。とても素敵な作品で、何千本の映画を観てもまだまだ名作は控えている
のがウレシイ。タイトルバックでジョン・バリーのテーマソング「フォロー・ミー」が流れる。甘美なメロディー
で、日本でもスマッシュヒットした。私の記憶にもメロディーが蘇る。
原作はピーター・シェイファーの戯曲。映画ではロンドンの町並みが効果的に挿入されていたが、舞台
では男女三人のコメディになるのかな。時代は1972年で、大英帝国からECに入ろうとする、ダウン
サイジングが印象的な頃だった。60年代の保守的な岩盤が崩れ、ロックやポップの名曲が世界に
送り出されていた。たぶん離婚も多くなってきて、社会問題ともなっているのだろう。
ヒロインのベリンダにはアメリカからミア・ファローが招かれた。設定もアメリカ人女性ということで、唯一
無二のキャラクターを持つ彼女が加わり、絶妙のアンサンブルとなった。
チャールズは典型的な英国上流社会の人間。気さくな面もあるが、一皮めけば、保守的な会計士の
顔が出てしまう。ベリンダとの幸せな結婚生活は、わずかの月日で転機をむかえた。
自由気ままの旅行者であったベリンダには、仕事中毒の会計士は遠くへ行ってしまった。心の空白を
埋めるために、ロンドンの各地に足を運び、鬱屈を晴らす。そのベリンダの不明の時間が、チャールズ
に浮気の疑いを持たせてしまった。
チャールズは探偵のジュリアン(トポル)を雇い、ベリンダの素行調査を始めた。
このジュリアンが傑作で、目立たないのが基本の探偵のくせに、白いジャケット姿で、図々しさは人一倍。
調査結果は、愛人は外交官風の若い男という。しかしチャールズがベリンダを問い詰めると、彼女は
不思議な経験を話し始めた。
いつからか、自分の後をつける男を感じた。カメラはテムズ川の観覧船でベリンダの脇の若い男を写す。
が、男は立ち去り、残った白服のジュリアンがニヤけてベリンダを見つめている。このシーンは絶品。
つまりベリンダは後をつけてくるジュリアンをまんざら悪くとらなかった。
二人はロンドン中をデートしている疑似カップルになって行く。言葉はない。ただ引力のように引き合う二人。ホラー
映画好きのベリンダにジュリアンは前に立ち、ゼフィレッリ監督の「ロミオとジュリエット」へ誘導する。
ハートウォーミングとはこの作品のためにあるような気がする。結局、ジュリアンが二人の仲を戻す、
二度目のキューピッドになる。どんどん世知辛くなる時代に、美味しいマカロンを食べさせてくれた名作。