アル中の父親の元を母親を連れて逃げ出した弟が14年ぶりに故郷に戻り総合格闘技のトーナメントに参加、一方で高校の物理教師をしている兄は住宅ローンが滞りマイホームを手放す一歩手前、兄もまた賞金のためだけにトーナメントに参加し決勝戦で兄弟対決が実現してしまうというヒューマン・ドラマ。2011年の製作だがこのような良作が未公開だったとは意外。
スポーツを題材にした作品は多いけれど本作のように単純に生活費欲しさというモチベーションは珍しいと思う。弟の方は金うんぬんよりも海兵隊を無断除隊(味方の誤爆で仲間が全滅し自暴自棄になった)したあと居場所を求めて再びリングに戻っていた。彼がジム入門の初日に横柄なミドル級チャンピオンを瞬殺した爽快感は忘れられない。
弟が母親と家を逃げようとしたとき兄は家族より恋人(現在の妻)を選んでいた。そのことが兄弟の確執を深刻にしていた。果たして決勝戦はどちらに軍配が上がるのか?二人共事情を抱えて居ることが観客の胸にズシリと響く作劇なのでどちらにも勝たせたいと言うのが本音だった。これはまるで甲子園の高校野球の決勝戦の趣。弟が母親の姓を名乗っていた事で当初二人が兄弟だとは誰も気づいていなかったが決勝戦の直前にメディアが嗅ぎつけボルテージは最高潮になる。一つ疑問に思ったのはこのタイミングで父親が会場からタクシーで何処かに移動していたこと。行き先には触れずに兄弟対決の最中に戻ってきたのだが、おそらく教会に行ったのではないだろうか?それを何らかの理由でカットしたというのが真相だと思う。
一進一退の攻防の末に腕をキメられた弟が肩を脱臼、それでも向かってくる弟に一瞬兄は怯んでしまうが再びリングに叩きつけアイ・ラブ・ユーと口にして泣きながら絞め技を繰り出す。この直後弟がタップして試合終了。最後は弟に肩を貸して引き揚げる兄の姿を捉えてジ・エンド。会場だけでなく屋外のプレイングビューの観客らの熱気も凄まじい迫力だった。種目を総合格闘技にした点もちょうどよい粗さが醸し出されて効果的だった。