いのうえ歌舞伎を、保守本流の松竹歌舞伎で実現。
最近の新感線やいのうえ歌舞伎は、やたらと安易に映像に頼って必要以上に映像による説明的な演出が多く、どうにも不満だったのだが、松竹歌舞伎であるためか、本作ではそうした安易な映像手法はほとんど見受けられない。舞台の良さは、観客の想像力に委ねるところにあるのであって、安易な映像手法による演出は好きになれない。また、今の歌舞伎界で最も脂の乗っている市川染五郎や、そのすぐ下の世代として染五郎などを下から突き上げている中村兄弟など、実力のある役者がいのうえひでのりの世界を十分に演じきっているのも良い。
その一方で、本来の新感線のキャスティングなら、もう少し適役を持ってこれたはずと思える役所もいくつかあって、その点は大いなる不満として残る。例えば、片岡亀蔵が演じた蛮甲なんかは、今の新感線がキャスティングすると、堤真一クラスがキャスティングされても不思議じゃない。あるいは阿部サダヲあたりだろうか。はたまた本筋である古田新太か。そうやって考えると、中村七之助の演じた鈴鹿も、松たか子なんかで見てみたい気がする。そもそも、新感線には欠かせない高田聖子、橋本じゅん、粟根まことの3人が出てないのは、何よりも物足りない。
まぁ、贅沢を言えばキリがないのだが……。
なんだかんだと書いたが、舞台作品全体としては非常に満足している。