これからもバンクス家のピンチに駆けつけて!
ネタバレ
子どもの頃に夢中になった本は、大人になっても忘れない。私の場合は『エルマーのぼうけん』と『風にのってきたメアリー・ポピンズ』。メアリー・ポピンズに登場する星のパンを食べてみたくてしょうがなかった。メアリー・ポピンズは子供の憧れだ、もちろん大人も。
本作は、ジュリー・アンドリュースの代表作のひとつ『メリー・ポピンズ』から25年後、バンクス家の子供ジェーンとマイケルが大人になった世界恐慌時代が舞台。バンクス家の危機に再びメリー・ポピンズが現れ、彼らを救う物語だ。当然のことながら前作とは全く異なる作品なので、比較することはできないのだが、敢えて1つ大きく異なる点を挙げるとするなら、前作はジュリー・アンドリュースという大スターの映画であるのに対し、本作は登場人物のアンサンブルが活きていることだと思う。
ジュリー・アンドリュースは、ブロードウェーミュージカルのトップスターだ。当時ロングラン上演されていた『マイ・フェア・レディ』のイライザ役が当たり役となっており、映画化される際、彼女がイライザを演じる予定になっていたが、最終的にオードリー・ヘップバーンが抜擢され、彼女は悔しい思いをした。しかしヴォイストレーニングをしてイライザ役に挑んだヘップバーンは、結局ほとんどの楽曲を吹き替えられて、こちらも悔しい思いをした。アンドリュースの方はというと、同年に公開された『メリー・ポピンズ』で見事オスカーを手にし、軍配はアンドリュースに上がった形だ。このように大スター、アンドリュースの抜群の歌唱が前作『メリー・ポピンズ』の最大の見どころなのは間違いない。もちろん他の登場人物にもそれぞれ歌やダンスの持ち場があり、特に煙突掃除人のバート(ディック・ヴァン・ダイク 本作にカメオ出演!)のパフォーマンスも圧巻だが、気づけばやはりアンドリュースの歌が強く印象に残っている。
本作のエミリー・ブラントの歌やダンスもステキだが、アンドリュースのような突出したインパクトはない。むしろメリル・ストリープに持っていかれた感もある(笑)。それでもバンクス家の子供たち、借金で家をとられそうになって悩むパパ(疑り深くて小生意気だったマイケルが、ちょっと気弱だけど優しいパパに!)やおばさん(笑い上戸で愛らしいジェーンが、婦人参政権運動をしていた母親のように労働者支援活動家に!)、前作のバートの立ち位置であるガス灯点灯夫のジャックなど、それぞれのキャラが全体的に良いアンサンブルとなっていて楽しい。
前作では画期的だったアニメーションと実写の融合も、特撮技術の上がった現在ではよりスムーズとなり、観客を無理なく夢の世界へ連れて行ってくれる。しかし面白いのは、バンクス家最大のピンチを救うのが、魔法ではなく「自力」という点だ(笑)。バンクスの家が銀行にとられてしまうタイムリミットが迫る中、メリー・ポピンズが「時間を戻す」と言い出すので、魔法で時間軸を戻すのかと思いきや、ビッグベンの時計の針を戻すというオチに心から笑ってしまった。さすがのメリー・ポピンズにもそこまでの強い力はないようだ(笑)。ハロルド・ロイドの『要心無用』よろしく、ジャックが時計台にのぼって針にしがみつく(『バック・トュウ・ザ・フューチャー』を例に挙げないところが、シネフィルのサガよ・・・www)。
さて、本作も前作も原作からは大きくかけ離れた物語になっている。原作ファンからすると「こんなのメリー・ポピンズじゃない!」と怒ってもいいところだが、本作には(前作も)全く怒りを感じなかった。それはきっと、メリー・ポピンズの世界には「なんでもあり」だからだろう。メリー・ポピンズは子供たちに夢をあたえ、つまらない大人に子供の頃の夢を思い出させる。これらの映画を観て大人も子供も楽しむ、それだけでいいのだ。
前作から数十年後を描いた本作を観て、私はもっともっと先の時代まで、メリー・ポピンズに登場してもらいたくなった。バンクス家の子供たちが成長し、その子供たちがまた成長し・・・そうしていつの時代もメリー・ポピンズがバンクス家のピンチを救うために現れてほしい。バンクス一家はいつまでも「さくら通り17番地」に住んでいて、彼女を待っていてもらいたい。たとえ「さくら通り17番地」が現代的なフラットに建て替えられていても・・・。もしメリー・ポピンズがデジタル時代の現在に現れたらどうなるか、想像をたくましくしてみた。子供たちがどんなにスマホやSNSを駆使した生活を送っていても、Googleでは教えてくれないことを、きっとメリー・ポピンズは教えてくれる。どんな時代でも子供たちは夢の世界に対応できる。そして忙しい大人たちも・・・。私にはそう信じられる。ちなみに煙突掃除人やガス灯点灯人に変わる現代の職業は何だろう?さしずめフードデリバリーあたりか?彼らの群舞は、オリンピック競技にもなった自転車のフリースタイルになるかも。きっと素晴らしいアクロバティックなパフォーマンスを見せてくれるだろう。なんだかワクワクしてきた!