終戦時、アブラハムはナチスの収容所から移動させられる途中、命からがら逃げのびて親友に助けられる。戦後ブエノスアイレスに移り住み仕立て屋となった彼は、自分が仕立てたスーツをその親友に届けるため祖国のポーランドへと旅に出る。
マドリードまでは飛行機、その先は列車でパリを経由し、ドイツを通って家を目指す。旅の途中で、宿の女主人、勘当した娘、駅で出会ったドイツ人の女性らに助けられながら長旅を続けるが、車中で倒れてしまう。一命をとりとめ、入院した病院の看護師の車で故郷の自宅まで連れて行ってもらう。
戦前戦中、戦後を通じて苦難の道を歩んだアブラハムは意固地になっている心を、旅を通じて出会う女性たちによって癒される。同時に彼女たちに心を許し、頑なだった自分の人生をも受け入れるようになる。
戦後何十年経とうと忘れられず、恨み苦しむ気持ちは理解できるような気がするが、なかなかそれを切実に感ずるまではいかない。自分には、戦後生まれのドイツ人女性のように、お節介気味にでも手を差し伸べることができるだろうか。演じるユリア・ベアホルトという俳優が心を閉ざすアブラハムに優しく接しているのをみると、自分は中国や韓国のアブラハムに私心なく平常心で接することができるだろうか。