静かな画面はほとんどあり得ない.強いて言えば,ラストショット,手前には工事現場の仮囲いの中が見え,そことアパートと隔てた間の車道には,トラックやらダンプやらが,それまでの「ひっちゃか,めっちゃか」に比べれば静かに動いており,アパートの2階の共用通路には二人ほどの人間が歩いているのが辛うじて見えている.二人は男女と察せられる.
男はボクサーだろう.リングにたち,観衆がいる中でボクシングの試合をしているから,そこそこの技術があるのだろう.リングで相手を殴りつけながらも,倒れてしまう葛城レオ(窪田正孝)がいる.彼は,医者に行き,占い師(ベンガル)に占ってもらい,運命を感じている.
女は薬物中毒者だろう.モニカ(小西桜子)とも呼ばれている.彼女が歌舞伎町を走り出すとき,物語はさらに激しく動き出す.千葉の郊外だろうか,後半の舞台は,レオとモニカの移動とともに,彼女の故郷へと移されていく.
寄せ場からシャバに出てくる男もいる.タバコを吸い,ビールを飲み,付き人の股間を握るのが権藤(内野聖陽)である.メガネをかけている.どうも彼には仁義があるらしい.中国でも高倉健は人気で,その大陸からやってきたチアチー(藤岡麻美)は,この日本という島国に既に仁義が失われていることを嘆きながら,それでも銃を撃ち放っている.
警察から崩れてしまった大伴(大森南朋)とヤクザに所属しながらその利権から利を掠め取ろうとしている加瀬(染谷将太)が,交錯するはずのなかった運命を強引に結び合わせていくようにも感じられる.加瀬はスタンガンや銃を使って,目の前の人々を倒していくが,終盤のホームセンターらしき量販店では,いよいよ彼の腕や首が解体されようとしている.そこには物語の解放が感じられ,そのせいなのか,ファンタジーなアニメが挟まれると,物語はどこかに翔んでしまったのだろうか.その少し前,立体駐車場で車がぐるぐると横転を始めている.