劇場版は楽しみだった反面「蛇足になるのでは?」という懸念もあった。物語的にはTV版の時点でしっかりまとまっているわけで、故に自分は「このエンディングから、蛇足感なく物語を構築できるだろうか?」という疑問、そして不安を抱えつつ劇場に向かうことになった。
だが、そんな自分の不安や疑問は開始早々に崩れ去った。
序盤、華恋が白紙の進路調査票を提出するシーン、そして香子が激情を爆発させるシーンで、観客は「レヴュースタァライトは、まだ全然終わっていない」と理解することになる。
キリンのオーディションは残酷にも99期生内部の「舞台人としての才能の差」を可視化してしまったわけだから、華恋を除く8名の心にわだかまりを残してもおかしくないし、何より我々は「愛城華恋が『ひかりとのスタァライト』という夢を叶えたその先の道」をまだ見ていない。
一応、「9人の中で唯一『夢を叶えてしまった』存在である華恋がその先で選ぶ道とは?」というテーマは舞台#2でも語られたのだが、あの時は結局「八雲という『敵』を倒す」という方向に最終的に物語が向かってしまい、前述のテーマは半ば有耶無耶になってしまっていた。
今回の劇場版は、消化不良のわだかまりを抱え、それを半ば受け入れながら前に進もうとしてしまっていた9人の舞台少女が、新たなレヴュー「ワイルドスクリーンバロック」の中でそんな感情をぶつけ合い、精算し、TV版からの重要キーワードである「アタシ再生産」を果たしてゆく、「卒業」の、そして「旅立ち」の物語だ。
序盤にななが仕掛けた「皆殺しのレヴュー」、そしてななが放つ「わたしたち、死んでるよ」という衝撃のセリフで、観客は再びの気付きを得る。
キリンのオーディションを終えた8人は、前述のように各人のわだかまりを抱えながらも、それを受け入れ、あるいは諦めつつ前に進もうとしている。香子が、自身のトップスタァへの執着を吐露しつつも「うちが一番しょうもない」と自虐しているのは、その象徴と言える。
真矢に負けたままオーディションを終えてしまったクロディーヌ。
自身の預かり知らぬところで自分の進む道を決めてしまった双葉に対する怒りが(それが双葉なりの「ふたりの花道」だと知りつつも)再燃する香子。
自分の選択をTV版で香子と交わした約束に対する裏切りだと感じて、後ろめたさを捨てられない双葉。
もっともらしい言い訳を並べて天才たちと相対することから遠ざかる純那と、それを許せないなな。
大小のわだかまりを抱えながら大人になっていくのは、我々にとっては普通のことだ。だが、彼女たちは「舞台少女」。悔しさや後悔をも糧にして進む(by「舞台少女心得」)者たちである。それが燃焼しきっていない感情を残したまま卒業していくことなどありえない。それができないとあらば、舞台少女としては「死んだ」も同然…という事実を、ななは自分を含めた7人の舞台少女、そして観客に突きつける。
そんな彼女たちが自らの感情を吐き出し、ぶつけ、最後に「アタシ再生産」へと至る計5幕の新たなレヴュー「ワイルドスクリーンバロック」は、TV版に輪をかけてスペクタクルかつ独創的なヴィジュアルで、新たなレヴュー曲も相まって観客の度肝を抜く。
TV版よりもより濃密かつエロティックな演出で、香子と双葉が感情をぶつけ合う「怨みのレヴュー」。
まひるのTV版からの成長、そして舞台少女としての本気を見せつけられる「共演のレヴュー」。
純那が選んだ新たな選択に涙する「狩りのレヴュー」。
TV版では若干不遇だったクロディーヌがこれでもかと活躍し、好敵手・天堂真矢の喉元に迫る「魂のレヴュー」。
中盤から矢継ぎ早に展開されるこれらのレヴューシーンは「レヴュースタァライト」でしか味わえない映像体験と言ってもよく、これだけでも一見の価値がある。
そしてレヴューシーンのエモーショナルさに強く寄与しているのが、画面の中の舞台少女たち同様に成長を続ける9人の声優の演技だ。
香子を演じる伊藤彩沙のドスの効いた京言葉に、TV版以上の冷徹さと激情で純那の心を打ち砕かんとするななを演じる小泉萌香の気迫。今までのまひるになかった、震え上がるような恐ろしさを演じきった岩田陽葵など、どの声優の熱演にも拍手喝采を贈りたくなる。
「ワイルドスクリーンバロック」の幕間に展開される華恋の過去回想は、制作陣も「TV版では舞台装置的な立ち位置にならざるを得なかった」と語る「愛城華恋」の人間性を改めて掘り下げていて、華恋を更に好きになれるし、それを踏まえてのクライマックスでの「アタシ再生産」、そして舞台少女としての決意を新たにしたひかりとの最後のレヴューは抽象的な演出故に未だに飲み込めない部分もあるものの、レヴュースタァライトの、99期生の物語の締めくくりに相応しい熱量を持っている。
TV版以上に物語は抽象的で視聴者に考察・脳内補完を求める部分は多いものの、それを楽しめるファンにとっては100点でも足りない名作足り得る、制作陣の熱量がこれでもかと味わえる凄まじい作品。