しみじみと心に響いてくる1本でした。真の教養とは何か。思想信条の違いをこえてお互いを理解しようとする気持ちなどが19世紀初頭の朝鮮の離島を舞台に丁寧に紡がれます。
キリスト教を信じ「西学」を信じる故に先王の信頼が厚かったにも関わらず王の死後の政変で流刑になった男ヤクチョン(ソル・ギョング)。島で両班の父の婚外子として育ち漁師として生きる若者チャンデと出会い、魚類を図鑑にまとめることを思い立ちます。
ヤクチョンが自分の信条にストイックなだけでなくほどほどに?欲があるのがリアル。恩赦を期待したり、自分の名を書くのが精いっぱいという島のトップに管轄する道長官と懇意であることを匂わせて島での待遇を確保したり。
種と畑の関係を男女と重ね合わせどちらも大切と語るシーンがとてもいいと感じました。畑や土壌が豊かでないと種は育たない。
書を読むだけでなく人生経験を経て初めて学びに肉づけができ詩を詠むことができる、というのも納得です。
物語後半の「泥をすする」のダブルミーニングにハッとしました。税の取り立てが出鱈目で官吏たちが私服を肥やすなかで自分もその泥をすすり「うまくやる」のか。お金や出世から距離を置き地べたで魚を触ったりして暮らすこともまた泥だらけの道。
どちらの「泥だらけ」がよいのか、チャンデが最後に選択できてよかったな…