鑑賞録

鑑賞日 2024年
登録日 2024/03/25
鑑賞方法 映画館 
鑑賞費用 1300円
誰と観た 選択しない
3D/字幕 -/-
メモ

「みる」ことと「語る」ことの拮抗。やがて「仲間」

この映画は、豊穣の映画に魅了され、それを志した80年代の青春の苦闘やら奮闘を克明に描いている。…まず、この映画の語り部は、複数以上で成り立っている。その多くは、映画館シネマスコーレ支配人・木全氏なのだが、若き日の後の映画人・井上淳一氏も加わり、やがて終盤には彼等が敬愛する映画監督・若松孝二も務めたりする。しかし、私が注目して観てたのは、そこには入ってない人物である。…映画館の切符窓口にひっそりと居る法子。彼女が男達を見つめるその表情。そう。彼女はみることで、語り部の男達と拮抗しているのだ。…その眼には男子高校生・井上のありがちな衝動はどう映っただろうか?…新幹線に乗り込む、若松孝二…映画を追うようにその背中を追った、なんて?…彼女には自主映画に捧げた任侠道のようなものがあった。他者を失くして完全にひとりぼっちになったとしても志しを貫くこと、だ。観ているうちに私は気づいた。法子の眼線は前作の吉積めぐみさんのそれの延長にあるのだ、と。そう。究極の男社会でどう生きたいか?ひとりぼっちの闘いの途上で落命したあの女性助監督だ。めぐみさんが言えなかったことを80年代の法子は代弁してるのではないだろうか?…事務所に置かれたその写真。あなたの眼線が傍に居て欲しい。ずっと「仲間」だから…若松孝二は、ずっとそう思っていたのでは?…井上にも「仲間」の眼線。彼のデビュー作。法子は見た。その無様なひとりぼっちの闘い。映画の任侠を貫く容赦ない批判のその視線も表情も「仲間」をみるような共感のそれに変わる。「ただでは起きないために転べ!」は奥深い名言である。この座右の銘の前では妬みも嫉みもプラスだ。苦汁に満ちた達成感なき達成。でも、今日この日のあなたの必死な表情、あなたのことを何十年先も間違いなく叱咤してくれるに決まってる。確かどうかはわからないけど、そう思えること?そう。それこそが、青春状態なのではないだろうか。