1957年、冬のウィーン。マックス(ダーク・ボガード)は、オペル・ホテルという二流のホテルのフロント係として、人眼をはばかるように暮していた。ホテルは旅行客中心だが、永く住んでいる客も何人かいた。没落貴族のスタイン伯爵夫人(イザ・ミランダ)、マックスの旧友のベルト(アメディ・アモディオ)だった。マックスは二十年前、ゲットーの責任者として権力をふるうナチスの輝ける親衛隊員であり、ベルトは当時の同僚、スタイン夫人は愛人だった。ある日、そんなマックスの生活を根底からゆさぶる人物が現われた。今は若手指揮者アザートン(マリノ・マッセ)の夫人になっているルチア(シャーロット・ランプリング)だ。二十年前、ユダヤ人の美女少だったルチアは、ゲットーに入るとすぐその美貌をマックスに眼をつけられ、彼の倒錯した性の愛玩物になった。ルチアは、思いもかけない運命のいたずらに驚いて、夫のアザートンをうながして即座にウィーンを去ろうとする。しかしアザートンはルチアを残して単身フランクフルトヘ飛び立ってしまった。一人になったルチアに向かってマックスは「何でここに来たんだ」と殴りつける。悲鳴をあげて逃げようとするルチア。激しくもみあううちにいつの間にか二人は熱い息をはきながら動物のように抱き合っていた。二十年の空白はあっという間に消え、二人はゲットー時代の倒錯した快楽の淵でのたうっていた。それから数日後、オペル・ホテルの一室では、秘密めいた会議がマックスを交えて開かれていた。クラウス(P・ルロワ)、ハンス(ガブリエレ・フェルゼッティ)、ベルトなどで、彼らはもと親衛隊員であり、自分たちの悪行を証言するいかなる人間をも消し去り、かろうじて戦後を生き抜いてきた。新たな証人としてルチアが浮かびあがり、彼女を消すための会議だったのだ。そのためマックスはルチアを自分のアパートにかくまい、仕事もやめて倒錯した愛に溺れていた。それは出口のない牢獄だった。地上からつねに見張られ、食料を買いに行くことさえ出来なかった。電気も消され、飢え、歪んだ愛と憎悪と哀れみをぶつけながらの悲惨な幾日かが過ぎた。真夜中、マックスは二十年ぶりにナチスの制服をとり出して身につけた。一方、ルチアも収容所時代に着用していた服と同じようなワンピースをつける。二人が車に乗り込むと、尾行車も動きだす。車がドナウの橋にさしかかると、二人は車を棄て、橋を歩き始めた。そのとき、銃声が二発轟き、二人はくずれるように倒れた。