昭和45年6月11日、東京小管拘置所内の処刑場で、一人の女がこの世に別れを告げ、天国への階段をのぼっていった。林葉かよ、47歳。--昭和30年春。結城つむぎの織女として、また美人としても評判のかよは、まだ32歳の女盛りであった。夫の栄三は傷痍軍人で、下半身マヒの障害者だった。しかも初夜を迎えないままに出征したため夜な夜な嫉妬心のかたまりとなって、かよに辛くあたった。そんな彼女に目をつけて接近したのが巡査の橋本だった。満たされぬ日々に悶々とするかよと深い仲になるのに時間はかからなかった。妻の浮気を知った栄三は狂ったように折檻し、思いあまったかよは夫を毒殺。しかし警察はズサンな調べで脳内出血による死亡として処理した。栄三の死後、警察を辞めた橋本はかよの世話で東京の大学へ通わせてもらうようになった。そんなある日、橋本は東京から幸子という女を連れて帰って来た。橋本は、かよとの噂を打ち消すために、幸子と仮の夫婦になるのだと言い訳をするのだが、かよと幸子二人の女は、橋本に騙されていたことを知り手切金を渡して縁を切った。同じ男に騙された妙な連帯意識で姉妹のように仲良くなった二人は、綿谷温泉郷にたどりつき、かよは土産物店を開き、幸子は芸者として、人生の再スタートを切った。そして、結城の頃から、かよに想いを寄せていた通称ターボという知的障害の一雄も、いつのまにかこの地に住みついていた。大和閣の主人・福見は、かよに惹かれ、何かと援助を申し出ていた。ダニのような橋本が現われ、かよに金をせびりに来た時も、福見は手切金として300万円を渡して追い返した。しかし、福見には精神病院に入院している妻・辰江がいる。そこで、ターボのかよに対する気持ちを利用して、かよに危害がかかるとそそのかし、辰江を殺害させた。邪魔者はいなくなった。福見とかよは晴れて結婚し、幸子も芸者を辞めて大和閣に落ち着いた。ところが、300万円を費い果たした橋本が再び舞い戻って来た。幸子は、やっと幸福をつかんだ自分とかよを、不幸におとしいれようとする橋本が許せなかった。殺すしかない。そう決心した幸子は、登山列車から橋本をつき落とそうとするが、逆に谷底につき落とされてしまった。最愛の幸子を失なったかよは復讐のために橋本と会おうとするが、福見は許さなかった。かよは福見に過去の夫殺しを告白、生きた屍のように無気力となってしまった。一方福見も、先妻殺しをそそのかしたターボの存在が邪魔になり殺そうとする。しかしターボの抵抗にあい、かよに手助けを求めたが、かよは逆に福見を殺してしまった。かよは初めて自分を最も愛してくれていたのはターボであることを知ったのだ。二人は死ぬ覚悟で逃走した。駅へたどり着いた時、結城の事件以来、かよを追っていた五十沢刑事ほか警察官が待ちかまえていた。