昭和三十三年の夏の終わり、大学生だった林相俊(呉昇一)は、北海道の森駅に降り立った。父の親友の松本秋男(浜村純)を訪ねるためである。樺太から引き揚げて十年ぶりの再会であった。松本はトシ(園佳也子)という日本人の女性を妻にして、縁日でおもちゃを売って生計を立てる貧しい暮らしをしていた。そこに、伽耶子(かやこ)(南果歩)という高校生の少女がいた。相俊は樺太での記憶をたどるが、その少女は知らなかった。伽耶子は本名を美和子といい、敗戦の混乱期に日本人の両親に棄てられた少女だ。日本人が棄て、朝鮮人の秋男が拾った少女は、伽耶琴(かやぐん)という朝鮮の琴の名をとって伽耶子と名づけられた。相俊は解放(日本の敗戦)後、父の奎洙(加藤武)、母の辛春(左時枝)、兄の日俊(川谷拓三)らと日本に留まったが、渡日した一世世代とちがい、自分が朝鮮人であることを自負するためには、さまざまな屈折を重ねなければならなかった。奎洙はそんな子供たちに絶えず苛立ち、怒鳴り散らすのだった。貧しい東京の下宿生活の中で相俊は、在日朝鮮人二世の存在矛盾と格闘しながら、伽揶子を思い出していた。翌年、早春の北海道でふたりは互いに心を通わせる。その後もふたりは、伽耶子の両親に隠れて交際を続けていた。その秋、突然伽耶子は家を出た。貧しさを嘆く義父、朝鮮人と一緒になったことを悔いる義母、そんな人工的な家庭の中で、伽耶子の混乱は深まる一方だったのだ。ようやく探し当てた道東の小さな町で、相俊は伽耶子に言う。「戦争があちこち引きずりまわしてくれたおかげで、僕たちは出会えた」。そしてその夜、ふたりは結ばれる。東京でのふたりの夢のような生活が始まった。しかし歴史はふたりにとっても未解決であり、それぞれの自分の人生を所有するには、若すぎたのだった。そんなある夜、伽耶子の義父母がふたりの下宿の寝込みを襲った。相俊が社会人になってちゃんと生活力が持てるまで、伽耶子を返してくれという松本の言葉に、相俊は返す言葉もなかった。それから十年の歳月が過ぎ、相俊は北海道に松本を訪ねた。トシは悔恨のうちに死に、伽耶子は他の男と結婚したという。松本の老いた姿を、相俊はただ見つめるしかなかった。