大正七年、春まだ浅い山間の薄暮、おりんは、破れ阿弥陀堂で一人の大男(平太郎)と出会った。翌日から、廃寺の縁の下や地蔵堂を泊り歩く二人の奇妙な旅が始まる。ある日、木賃宿の広間で、漂客や酔客相手におりんが「八百屋お七」を語っている時、大男はその客に酒を注いだり、投げ銭を拾い集めていた。またある夜には、料理屋の宴席で「口説き節」を唄うおりんの声を聞きながら、大男は勝手口で、下駄の鼻緒のすげかえをすることもあった。それからも大男は、大八車を買入れ、おりんと二人の所帯道具を積み込んで、旅を続ける。そんな時、柏崎の薬師寺で縁日が開かれた。露店が立ち並ぶ境内の一隅に、下駄を作る大男と、できあがった下駄をフクサで磨きあげるおりんの姿があった。しかし、札をもらわずに店をはったという理由で、大男は土地のヤクザに呼び出される。大男が店を留守にした間に、香具師仲間の一人である別所彦三郎に、おりんは松林で帯をとかれていた。松林の中で、すべてを見てしまった大男は逆上し、大八車の道具箱からノミを取り出すと、松原を走り去った。やがて、渚に座りこんだままのおりんの前に大男が現れ、「また一緒になるから、当分別れてくらそう。俺は若狭の方へ行く。」と言い残すと姿を消した。季節は秋に変り、おりんは黒川の六地蔵で出会ったはなれ瞽女のおたまと共に、南の若狭方面へと向っていた。そんな時、大男は別所殺しの殺人犯として、また福井県鯖江隊所局の脱走兵としても追われていた。残雪を残す若狭の山に春が訪れる。若狭の片手観音堂に来ていたおりんは、ある日、参詣人でにぎわう境内で、大男に呼びとめられた。その夜、うれしさにうちふるえながら、おりんは初めて、大男に抱かれた。翌日から二人はまた旅を始める。しかし、二人の背後に、憲兵中尉・袴田虎三の姿が迫っていた。