琵琶湖近くの旧家、日野家の長男正夫は、大阪で問屋を経営し、ゆくゆくは正夫を後継ぎにと考えている父親亮吉の意に反して、大学へも行かず、ただ仏像の魅力にとりつかれていた。美しい姉の百合は、なぜか父母のすすめる縁談に耳をかそうとはしない。そんな百合に日野家の書生、岩下や百合の同窓生で、今は寺の若い僧侶、荻野は熱い慕情を抱いていた。ある夜、知り合いの結婚式に両親が上京、岩下も実家に帰って、広い屋敷に二人きりになった百合と正夫は、お能遊びの末、いつしか狂おしく抱擁し合った。怖れおののく姉に「二人がこうなるのが一番自然なんや」と正夫は激しく肉体をぶつけた。こんな二人の関係を荻野が目撃した。荻野は僧侶としての自分を考えながらも、煩悩を刺激されるまま、菩薩の腰を撫でまわした。やがて百合は正夫の子を宿した。正夫は姉の妊娠が両親に気付かれたとわかると百合と岩下を関係させ、その現場を父親に発見させ、その結婚を強引に承諾させた。正夫は姉との強い血縁関係をひたすら信じて、かねての望みとおり京都の仏師、森康高のもとに弟子入りした。ここでも正夫は妖艶な後妻令子と肉体関係をもつが、すでに性能力を失っている康高は二人の情事を垣間見ることで、仏像を刻むエネルギーを生みだしていた。十カ月後、百合は無事男子を出産した。久し振りに実家に帰った正夫は、ふたたび城跡で清交を重ねた。その光景をたまたま見た岩下は、あまりのショックに新幹線に飛び込み自殺した。一方両親と正夫の異常な関係に悩む、康高の息子康弘に相談をうけた荻野は、正夫が行く先々に地獄を作る行為を許せず、正夫を詰問した。しかし、正夫には掟も罪も罰も地獄もなかった。荻野には想像もつかぬ虚無の深淵をのぞかせて、彼に迫った。数日後、康高の執念の観音像は完成するが、精力をつかい果した康高は他界した。そして、いまや淫蕩な義母と肉体関係にある康弘は、このことまで正夫の罠と思い、怨念のノミをふるったが、逆に康弘の胸に突き出さった。一刻ののち、幻想の別世界からの老婆の呼ぶ声に、正夫は次第にその声にのめり込まれていった。そして初夏の薫風が吹く、数カ月後、寺には子供の手をひき、山門に続く石段を仕合わせそうに昇っていく百合の姿があった。