灰色の荒野に、密生した枝が一本。その影から黄金に輝やく巨大な眼がじっと覗いている--秋子の描いた油絵を見て、「そんな少女時代の幻想にばかりこだわっていると佐伯さんは私が奪っちゃうわよ」と夏子は笑った。秋子は、中学の先生をしながら富士見湖畔に妹の夏子と二人で住んでいた。レスト・ハウスの管理人、久作は、何かと二人の手助けをしてくれていた。その久作のもとに大きな柩が届けられた夜から、秋子の少女時代の恐ろしい幻想は現実のものとなって襲ってきた。町へ出て恋人の佐伯に全てを話そうとする秋子。しかし、佐伯の勤務する病院にも不思議な患者が運び込まれていた。血液が多量に失われ、完全な意識障害を起こしている娘の首筋には、咬みあとのような傷口が二つ。その娘の倒れていた場所は富士見湖のほとりであった。富士見湖畔の家に帰った秋子は、口から血を流して死んでいる愛犬レオと、そばに立っている久作を発見してした。久作の首には、はっきりとあの娘と同じ咬み傷があった。失神した秋子を抱いて久作はレスト・ハウスヘ--秋子の混濁した視界には、妖怪のように牙をむく男の顔と、少女時代に見た黄金に輝く巨大な眼が映った。瞬間、眩しいライトの光茫がよぎり、巨大な眼はたじろぎ、秋子は釣客の男たちに救い出された。その夜から、夏子の様子がおかしくなった。夜中にひとりで何処へともなく出かけていく。稲妻と雷鳴がこの世のものとは思われない夜、秋子の部屋に夏子が招き入れた男は、憎しみの眼で姉を見つめる夏子の前で秋子を襲った。一方、雑木林の中で佐伯に踊りかかったのは狂暴な顔に変った久作だった。仁王立ちにスパナで飛びかかろうとする久作。瞬間、稲妻の閃光にスパナが青い火花を発し、火柱が久作の全身を貫いた。秋子の家にとって帰した佐伯は、そこで秋子の幻覚の男の存在を知った。半死の夏子を湖のほとりで発見したのは、その夜であった。その首筋にむき出されている咬み傷。「私の死体を焼いて…」夏子はつぶやいた。周囲の人物が変貌し、悪魔のようになった事実、そして首の咬み傷、失われた血、吸血鬼だ。佐伯は秋子に催眠面接をかけて少女時代の記憶を呼び覚した。能登半島の小さな港町。二人は鉛色の波が岩を咬む日本海の荒波のほとりに立つ洋館に急いだ。廃屋と化した館は、床はほこりがつもり、蜘蝶の巣が張っていた。そこで二人が見たものは、血にまみれた口と鋭い牙、黄金に輝く眼を持つあの男だった。館に密んでいた吸血鬼は二人に襲い掛かかった。佐伯と格闘中、吸血鬼は二階から落ち、木片が心臓を貫いて滅んだ。