一八九五(明治二十八)年、北関東のある村に人力車夫の儀三郎と妻のせきが住んでいた。二人には奉公に出している娘のおしんと乳呑児の伊七という二人の子供がいる。せきは四十を過ぎているのに、三十そこそこにしか見えない。そのせきのところに、儀三郎の留守を狙って兵隊帰りの豊次が足繁く顔を見せるようになった。ある日、伊七に乳をふくませ、まどろんでいるせきの上に豊次が覆いかぶさった。初めは抵抗したせきも、豊次の強引さに敗けてしまう。それから二人は情事を重ね、せきは豊次が自分より二十六歳も若いということを忘れて、愛を受け入れた。せきを自分のものにしたい豊次は、そのあかしとして彼女に陰毛を剃らせると、夫のもとに戻れなくなったせきに、「殺しちゃうんだよ」と言うのであった。その晩、焼酎を飲まされて酔いつぶれている儀三郎の首を、二人は麻縄で締め、死体を雑木林の奥にある古井戸に投げこんだ。せきは村人に尋ねられると「儀三郎さんは東京で仕事をしている」と答えた。その後、豊次に妙な習慣がついた。雑木林で集めた落葉を持ち帰らずに、古井戸に投げすてるのである。それから三年の月日が流れ、お盆が近づくと、姿を見せない儀三郎のことが話題になった。儀三郎の夢を見たという村人の話や、お父さんの夢ばかり見るという帰郷していた娘の話におびえるせきは、やがて、自分でも、酒を飲んでいる儀三郎の亡霊を見るのであった。村人の噂に駐在の巡査も捜査に乗りだした。古井戸のあたりをうろつく若旦郡を見かけた豊次は事件の発覚を恐れて殺し、不安になった二人は、儀三郎の死体をどこかに移そうと、古井戸の底に下りて泥さらいを始めるが、その時、松葉がせきの目に刺さりせきは目が見えなくなる。豊次はそんなせきが哀れでならず、死ぬまで離れまいと決心する。やがて儀三郎殺害容疑で逮捕された二人は、裏山の大木の技につるされ、容赦ない拷問に、豊次は苦痛にこらえきれず、「俺が殺した……」せきも「おらが殺しただ……」と叫ぶ。古井戸から引き揚げられた儀三郎の死体は白骨化していたが、首には麻縄が巻きついたままだった。