お夏の父は借財と病苦でみじめな生涯を終えた。勝気なお夏は、その借財を返すために自ら吉原出入りのならず者直次郎の世話で、廓の遊女屋海老新へ売られて来た。お夏の指導役はお兼で、第一日目から吉原の異常なしきたりをお夏に教え込んだ。そのお夏についた最初の客は、根岸の隠居と呼ばれる老人だった。だが、彼の供について来たのは、意外にも巳之吉だった。巳之吉は、米問屋だったお夏の父の使用人だったのだ。ところが、お夏にふられた恨みから、変り果てた彼女の姿を嘲り笑った。同じ夜、勤めの辛さに耐えかねた琴糸が舌を噛み切って死んだ。折しも、そこへ来合わせた直次郎は、琴糸の遺体を投込み寺に葬り、その足で巳之吉を飲屋に呼びだした。それは己之吉の旧主に対する裏切り行為や、その主人の娘をなぶりものにした卑劣さをたしなめるためだった。次の夜お夏は根岸の隠居が、彼女の父を死に追いやった憎い商売仇両国屋であることを知った。両国屋は、勘定奉行の役人と結託し、偽造手形で同業者を次々に没落させていたのである。だが、お夏の素性を知らない両国屋は、役人宛の密書を預けると急用で立去った。お夏はその動かぬ証拠を手にすると遊客の衣裳を身に装い、岡っ引長七の目を盗んで、大門から脱走した。だが直次郎が彼女の行手を遮り、脱走の重刑を説いた。お夏は、危く難を逃れたものの密書を直次郎に取上げられてしまった。一方、直次郎はその密書をネタに巳之吉を強請った。この一件からお夏は両国屋に密書の所在を責められ、お兼の残酷な鞭を浴びた、直次郎も強請の罪をとわれたが、斬掛った巳之吉を殺し長七を刺し殺した。そして、騒ぎに駈けつけた同心村垣は、密書を受取ると時を移さず下役人を連れ海老新になだれこみ、お夏を拷問中の両国屋を逮捕したのだった。