銀子は東京の下町に住む貧しい靴直しの娘に生まれた。父銀蔵はお人好しだが、甲斐性なしで暮しも立たず、銀子は年端もいかぬのに千葉の芸者置屋に売られて行った。辛い仕込の期間が終り、やがて彼女は「牡丹」という名で座敷へ出された。女癖の悪い置屋の親爺磯貝に目をつけられ、追いまわされるが、銀子には千葉医大の医師栗栖という意中の人が出来た。磯貝は恐い女房に死なれてからは銀子に対する態度が一層露骨になり、連日の如くに責め折檻をした。これを救いに来たのは父の銀蔵だった。栗栖のことも忘れて東京へ戻って来たものの、家は貧しく、更に父が病気に倒れ、銀子は今度は東北の或る町へ再び身売りした。この町で銀子の世話をしてくれた旦那倉持とは、次第に情愛が増し、本気で二人の間には結婚話も出たが、家名を重んじる倉持の母の反対で実行出来ず、倉持も銀子に無断で某家の令嬢と結婚してしまった。傷心の銀子は再び東京へ帰り、芳町の「春芳」から三度目の勤めに出た。ここでは姉芸者染福のねらっていた株屋の若林から世話を受けることになったため、銀子は事毎に苛められ、熱のある躰で無理を押したためもあって、悪性の肺炎に倒れた。ようやく死線をこえはしたが、日頃から虚弱だった妹が代りに死んでしまった。一旦証文を破ってくれた筈の「春芳」の女将の強引な泣き落しで、銀子は又しても苦しい勤めに出て行った。