--美濃平野に散在する、櫓のついた奇妙な建物。--亜炭発掘場である。御蒿町の東和炭鉱もその一つだ。最近景気はよかった。が、修繕しいしいやっと安全を保っている、気息エンエンのボロ炭鉱に変りはなかった。梅雨--雨は小やみなく降り続いた。今日も、ミチの操るウィンチのゲージに乗って人々は縦坑を降りて行った。それに代って炭箱が昇ってきた時、突然周囲の木枠の桶が裂け、水がすさまじい勢で迸り始めた。土砂が怖しい鳴動と共に落下し、水は激しく本坑道へ流れこんだ。切羽にいた五人が逃げ場を失い生埋めになった。暗黒の切羽にアセチレンランプが細々と光を投げかけた。五人の中の最年長者は伴野、今まで二度も落盤にあったことがある。あとの四人のうち野田には麻疹の子供がいた。石垣は農業の片手間に働いていた。油井は坐掘りの係だった。そうして百姓の次男でミチと幼友達の山口は兄と喧嘩して初めて鉱内に入ったのだった。--外では必死の救助作業が続けられた。炭鉱主須永、韓国人島野らの努力をよそに、電圧は低下しモーターは故障し、また泥水が作業の進行をはばんだ。救助予定の日が一日延び、人々の憤満、焦りは高まった。それが韓国人島野らに向って爆発した。朝鮮人とあざけられた彼らは作業から手を引いた。集った家族の人々は須永を五人を殺したのだと責めた。須永と鉱夫長の日下の二人は追いつめられ、死を選ぼうとさえした。--切羽では、わずかに輝いていたアセチレンランプも消え、五人は真の闇の中に取り残された。すでに酸素もつきようとしていた。外では須永らのこん願に、再び韓国人鉱夫たちが作業にとりかかった。応援隊も加わり作業は活気づいた。かつて須永のもとで働いていた横田もかけつけた。しかし、四日がすでに経過しており、五人の生死の程も判らなかった。決死隊は降りかかる土砂をついて坑道を進んだ。五人から応答があった。奇跡。黒布で目隠しされて出てきた五人を囲み人々は歓喜に涙を流した。それはどたんばに追いつめられた人間だけが知る、美しい、赤裸々な魂からのみ流れ出る涙であった。