興奮のるつぼと化している競馬場の群衆の中から、サッと一条の光線が走った。ちょうどその時、スタンドの屋上から一人の娘がもんどりうって落ちて来た。たまま居合せた伊豆丸博士の手で自殺と断定されたが……。これも偶然この事件を目撃した御存知多羅尾伴内は深い疑問をもった。死んだ雪江は騎手市田の恋人であったが、かつては伊豆丸博士夫人篤子の弟譲吉の女であったのだ。伴内は、雪江の勤め先キャバレー・インパールに行き、市田と譲吉が争うのを目撃した。その直後市田は何ものかに殺され、譲吉に嫌疑がかかった。しかし伴内は雪江--市田と相つぐ殺人に何か大きな秘密がかくされていることを察し取っていた。かくて……ある時は賭博師に、またある時は老巡査に、片眼の運転手にと扮して活躍を開始した。雪江の死の現場から紛失していたハイヒールから一味が国際的な犯罪団であることを知った伴内は、不敵にも画家に扮して敵中に入り、画解きをして見せた。一味の一人、十亀を格闘の末捕らえたが、何ものかに殺されていた。インパール、パレワ、マンダレー、ミンジャン--すべてビルマに関係ある名前が登場することから一味の首領を張景文と睨んだ伴内は単身張邸に乗り込んだが、一室に閉じ込められてしまった。張こそは伊豆丸博士の実兄周吉であった。ビルマより麻薬王となって秘かに帰国したが、許婚の篤子が弟と一緒になっているのを知って復讐の機会を狙っていたのだった。別の一室には伊豆丸博士と篤子が生命の危機にひんしていた。あわや、という一瞬、小窓より脱れた伴内が現われ、張一味は亡ぼされた。伊豆丸博士はじめ一同がほっとした時、伴内の姿はすでにそこになかった。