今から千五、六百年前、景行天皇の時代。重臣大伴建日連は、一族出身の天皇の後添いの子若帯を皇位につけようと、前后の子小椎命を熊曽征伐に名をかり大和追放を図った。武勇に秀で信望の厚い小椎命は大伴氏にとっては目の上のコブ、しかし西の国の豪勇熊曽に向えば必ず討死するだろうというわけだ。が、命は忽ち熊曽兄弟を討ち果した。命の強さに驚いた熊曽の弟建は、この国で一番強いあなたは日本武尊と名のるようにと息絶えた。日本武尊は都へ凱旋した。計画に失敗した建日連は、天皇をそそのかし今度は尊を東国征伐に向わせた。人を疑うことを知らぬ尊も、弟たちをやらず自分だけ戦いにゆかせる父天皇を怨んだ。語り部の媼が語る、天の岩戸の、平和なおおらかな話を聞くにつけても自分の運命が悲しかった。しかし伊勢神宮で宮司をつとめる叔母倭姫から、昔、須佐之男命が八岐の大蛇を退治して、その尾から出て来た名剣・叢雲剣を天皇からの贈物として与えられ勇気百倍した。が、これも実は天皇がくれたものでなく、倭姫の計らいであることを巫女の弟橘姫は知っていた。弟橘姫は尊に恋される身、自分も尊を慕っていたが、恋してはならないのが巫女のさだめだった。東征の途についた尊は無敵の強さ。尾張の国に来たとき、国造の娘美夜受姫に招かれた。姫は病気の父に代り国を害する尊に一太刀でも恨みを晴らそうとしたのだが、尊の心の美しさに憎しみも消え、尊の身辺を世話に後を追ってきた弟橘姫に嫉妬の眼を向けるようになった。弟橘姫を連れた尊の軍勢は相模国に着いた。ここの国造大伴久呂比古は建日連の使いをうけ尊を討とうと待っていた。尊を焼津の野に連れ出し四方から火を放った。しかし尊は叢雲の剣で草をなぎ払い難を避けた。走水まできた尊は、大伴一族に謀られたこと、父天皇まで自分を亡きものにしようとしていることをはっきりと覚って東征の無意味さを知り大和へ引返すことにした。ところが、このとき一天にわかにかきくもり尊の船団は波に呑まれそうになった。恋してはならぬ巫女の身を神が怒ったのか、弟橘姫は心に念じると荒海へ身を躍らせた。激浪は忽ちおさまった。大和の国にさしかかった尊は建日連らの大軍に迎えられた。多勢に無勢、尊は落命した。尊の化身である一羽の白鳥が、山の上をめぐると見るや山は火煙をあげ熔岩が大伴の軍勢を押し流した。白鳥は倭姫の館を旋回すると大昔この国を造った伊邪那岐・伊邪那美命のいた高天原に向い飛び去った。