終戦の前夜。青年将校沼崎敬太は誤まれる国家観により平和主義者の重臣戸田光政を暗殺し、その娘節子の短剣によって腕に傷をうけた--。一九四八年、歳月は流れ、銀座裏明星ホールの一隅に一人の青年が魂を失っていた。彼は敬太であった。彼を手先に使っている佐川は表面新聞を発行し、裏面は悪徳の限りをつくしていた。彼の経営する明星ホールには父と家を失い転落した戸田節子がいた。節子の義兄平林はかつて鬼検事として自由主義者をろう獄にたたき込み、今は人の目をしのんで佐川の新聞社の一隅に生きていた。節子は運命の皮肉によりいつか敬太に心ひかれ敬太もまた節子を愛した。だが敬太はかつて犯した罪の、あのときの娘の面影を今、その節子に見出してがく然とした。だが今は愛する彼女に打明ける勇気がなかった。佐川は節子をわがものにするため敬太を殺そうとした。暗夜、敬太は佐川の手下に傷つけられ節子に救われた。敬太を介抱した節子は、彼の腕の傷痕に父の仇の人を見出した。しかし彼女は今敬太を愛しているのだ。そのころ佐川の某会社争議破りと民衆殺傷事件を察知した都下有力新聞記者高倉は佐川の新聞社にのりこみそこで平林の姿を見た。高倉はかつて平林のため冷こくなごう問にあい片輪になっていた。彼は逆上したが理性をもって心をおさえた。これを知った佐川は高倉と平林をけしかけ決闘させることにした。高倉がたおれれば犯罪が暴露せず、平林がたおれることにより介添に敬太をつけることから節子は敬太を憎み離れるだろう。だが決闘の夜、平林も高倉も、そして敬太もすべてが佐川のたくらみであると知り、敬太は今こそ人民の敵佐川を憎みそして殺した。彼は自首を決し、節子のアパートへ別れにいった。そして節子の父を殺したことも告白するのだ。節子の眼ざしは静かだった。「知っていました……」軍閥が二人を憎しみ合う位置においたので、今愛し合う二人はそれをのり越えようとしている。二人はひしと抱きあった。この日こそ敬太の生がいに輝ける日であった。翌朝節子の明るい眼ざしに送られて、敬太の姿は警視庁のとびらの中に入っていった。