青山竜平が教師として働く竜別高等養護学校では大きな事件が起きていた。卒業を間近に控えた高志と佑矢が買い物に出ると言ったきり寮に戻ってこないのだ。竜平は近所の人たちからふたりが旭川へコンサートを聴きに行ったらしいことを聞くと、若い小林先生と一緒に、旭川へ向けて車を走らせた。車中で竜平は高志たちと過ごした3年間を思っていた。3年前の春、竜平の受け持ちのF組は、それぞれに障害を持つ9人の新入生を迎えた。高志の知恵おくれはさほど重いものではなかったが、中学時代に受けたいじめのために心を閉ざした彼は、一言も口を利こうとしなかった。小林の担当となった佑矢は突然奇声を発して暴れたり、小便や大便を垂れ流したりと、片時も目が離せない。二学期のある日、生徒のひとり・資子の書いた作文を読んでいた玲子先生から原稿用紙をひったくろうとした佑矢を、高志が言葉を発して窘めた。佑矢は素直に従い、この日から高志を兄貴と慕うようになったのである。高志も自信をつけ、二年生の春には夢をつづった作文で“青春のメッセージ・コンクール”の準優勝を受賞した。三年生になると、生徒たちは就職の準備のために会社や工場へ現場実習に出るようになる。高志はクリーニング工場で実習を受けることになったが、彼にとって初めて接する社会は決して甘いものではなかった。会社の仲間となじめず、学校へ戻ることになってしまった高志は、「俺、もっとバカだった方が良かったな。自分がバカだって気づかないほどバカだったら良かった」と、竜平に告白するのだった。竜平と小林が到着したコンサート会場には、すでに高志と佑矢の姿はなかった。高志と佑矢はコンサートの後、ホテルで働く先輩・木村を訪ねて、さらに翌日、雪の中をあてどなく歩いていた。ふたりは親切な夫婦と知り合い、彼らの熱気球に乗せてもらう。それを発見した竜平と小林は、無事にふたりを学校へ連れ戻すのだった。卒業式の日、竜平は9人の生徒たちにはなむけの言葉をかけようと教壇に立つが、出てくるのは涙ばかりだった。そんな竜平を生徒たちは逆に励まし、そして、希望に満ちた輝かしい顔で学校から巣立っていった。