江戸時代中期。庄屋の嫁・ヌイは、60の齢を迎えた年寄りが家を出て人里離れた原野“蕨野”に移り住むと言う、村の秘したる約定を姑のレンより聞かされる。それは、厳しい土地にあって数年に一度来る凶作から若い者たちの食料を確保する為の昔からの知恵。しかも、蕨野に食料は無く、作物を植えることも許されず、ジジババは里へ下って村の仕事を手伝うことでしかその日の糧を得ることができないのだ。だが、秋まで生きながらえれば家に戻って来られる。今年、60歳になるレンは心配するヌイにそういい残すと、7人のジジババと共に蕨野に入って行くのだった。そして、彼らの壮絶な生活が始まる。惚けてゆく者、足腰が弱り動けなくなる者、飢える者……仲間たちが次々と死んでいく。更に、例年にない雨の多い冷夏、凶作が村を襲った。そんな中、ヌイは秋になってもレンが帰って来られないことを知る。そう、レンはヌイを安心させる為、嘘をついたのだ。蕨野に帰りの道は無かった。冬、雪深い蕨野で遂にレンも息絶える。しかし、夢枕に立った死んだ孫によって彼女はヌイの子として転生することを聞かされる。果たして肉体から離れたレンの魂は。やがてヌイの里へ降りてゆくのだった……。