ノース・ウェストの寂しい漁村に住む漁夫セス・ロウは頑迷な男だった。つい過ぐる日、彼は妻を亡くなったばかりであるのに、それに対して悲しむ色もなく、かえって息子のマットが悲嘆に暮れているのを見て荒々しく鞭うつのであった。その上マットを伴った彼は女の肉の香りのただよう怪しげな近くの酒場に現れて他の荒くれ男と女を争ったりした。父セスとは性格的に相反するマットは父のそうした行為を嫌った。そのため彼は父親から殆ど半死半生の目に遭わされた。酒場のことがあってからというものマットの心に巣喰っていた父親と我が家と海とに対する憎しみは次第に明瞭な形をとるに至り、いっそ逃亡して平和な農夫生活を始めようと思い詰めるまでになったのである。その頃セスは求婚広告により一婦人を妻に迎えようとしていた。ちょうどセスの漁に出た留守中その広告によりルス・エヴァンスという若い女性が訪れてきたが、彼女の可憐さはマットの心をひきつけずにはいなかった。帰宅したセスはルスを妻とするべく村人を集め酒宴を張った。その夜凶暴な父親によって手折られんとするルスの身の上を案じたマットはルスを逃亡させんとしたことから父と子の間に激しい闘争が起こり、セスはひどく脚部をを痛めてしまった。足の自由を失ったセスは椅子に腰掛けて網仕事をするようになった。この間にマットとルスとは何時か恋仲にすすんでいた。嵐の夜、セスはルスに近づこうとしたがかえって彼女とマットが逃亡する計画のあることを知ってセスは怒りに燃えた。ルスは単身激浪の海上へ小舟によって乗り出した。狂気のセスは浪うち際に這い出し、漁夫達に命じて縄を己の椅子に結びつけ、一端を小舟につけさせた。恋人ルスの危険を見たマットは今は海洋を恐れずこれまた小舟を操ってルスに近づいた。かくてマットがようやくルスを救って陸に漕ぎ戻ったとき、彼は不具となれる父親が力つきて激浪中に転落し海の藻屑と消えたことを知ったのである。