自然豊かな山里《祖谷》。ある夏の日、ボンネットバスに乗って東京から青年・工藤(大西信満)がやってくる。彼はこの地で自給自足生活を始めようとしていたが、一見平和な村では、地元の土建業者と自然保護団体との対立や、鹿・猪といった害獣から畑を守ろうとする人々と獣の戦いなど、様々な問題が起こっていた。そんな中、工藤は人里離れた山奥でひっそりと暮らすお爺(田中泯)と春菜(武田梨奈)に出会う。電気もガスもなく、物もほとんどない質素なこの家の生活は、時間が止まったかのようにゆったりとしていた。お爺は毎朝、山の神様が祀ってある社まで山を登り、お神酒を奉納する。春菜は一時間かけて山を下って学校に通い、放課後はお爺の畑仕事を手伝う。効率とは無縁の二人の生活は、工藤の心をゆっくりと浄化していくのだった。だが、季節が巡るにつれ、お爺と春菜の生活にも変化が起こり始める。進学に悩む春菜と体調が悪化していくお爺。ずっと続くと思っていたお爺との生活がズレ始めたことに不安を抱く春菜だったが、お爺は春菜の心配をよそにいつものように山に出掛けていく。一方、田舎での生活に期待を寄せていた工藤も厳しい自然との共存に限界を感じ、自分は所詮文明社会の下でしか生きられないということに絶望を隠せないでいた……。