森の木々がざわめきを止めるほんの短い時間、それも客の来ない明るい昼下がり、店長(山本圭祐)は、ばー(りりィ)は自分と一緒に死ぬためにここへ来たのではないかと想像する。ここでまこと(川瀬陽太)と出会ったと言うのは嘘で、あらかじめ父(田中泯)と言い交わした約束があって待っていたのではないかと。だから父のすぐあとにやってきた姉と弟の、幼い弟はる(岩田龍門)に自分を重ねてしまう。店長は、父を森へいざなったことの自分への言い訳ではないかと考える。すべては仕組まれたことと考えれば生きやすくなるが、そういうごまかしが通じないのがこの森であることを、店長自身が誰より知っていた。それに、誰かがあれが父だと教えたわけでもなく、ばーとまことがいつもより浮かない顔をしていたので、勝手にそう考えただけだ。そもそも、ばーが本当に母はどうかも分からない。店長は、この森にいて自分が自分でいられる唯一の術であるとでもいうように、ギターをチューニングする。店長が森へいざなった誰かの置き土産のギターを弾き、歌うと、森も歌った。店長はふとギターを止める。聞いたことのない音を聞いた気がしたのだ。はるの歌声もとぎれとぎれに聞こえる。また勝手な考えを巡らせ、店長は今日来る客を想像する。