230ほどのショットで90分にまとめている.3部ほどの構成になっており,ジェヌビエーブ(カトリーヌ・ドヌーヴ)とギイ(ニーノ・カステルヌオーボ)の恋慕を主軸に3年ほどの月日がシェルブールの街を舞台に描かれる.後日談としてクリスマスがプレゼントされ,野外には雪が降り,雪が積もり,雪が止む.
2部にはギイはほとんど出てこないし,3部にはジェヌビエーブがほとんど出てこない.1部にあった蜜月の幸福は,2部と3部で影を潜めて変質し,ローラン・カサール(マルク・ミシェル)やマドレーヌ(エレン・ファルナー)との幸福が目指される.またその周りには,エムリ夫人(アンヌ・ヴェルノン)やおばさん(ミレーユ・ペレー)といった中年女性が現れる.彼女ら彼らは,水色,桃色,紫色,緑色,赤色,橙色などとりどりの衣装を纏い,小物を身につけ,塗装やクロスの壁に擬態しているかのようでもある.外壁にも色があり,やや色のついた照明も当たっているが,鋪道や港の船,そしてさらにその周りはどこかくすんでいる.華やかな中心がある周縁では鮮やかな色味は落ち,風化や劣化,あるいは老化を経た自然な色味が渋く現れているのである.しかし後日談に着られている二人の黒い衣装は,夜間の白い雪を目立たせるだけのためのものではない,周縁のさらにその周りにはこうした黒と死と闇があるのであって,ジェヌビエーブの母でもあり,あの明るかったエムリ夫人が死んだことが娘から告げられる.その喪がその衣装の黒に反映してしまったのでもあった.
ガレージのガソリン臭さ,残業といった労働問題,自転車に乗る者たち,テーブルの上の果物と供される前の魚,エンプティな街角やタイルの壁,アルジェリアの独立戦争と宝石商,街路でのカーニバルや金の王冠と幸福の石など,時代や歴史的な習俗,そして現代的な問題も取り沙汰され,必ずしも美しいだけでない世界が画面の端端に現れている.
それでも美しい.特筆すべきは1部のラストショットであろうか.船ではなく汽車で地中海側まで横断するのであろうか,ジュヌビエーブとギイの別れにおいて,画面の左半分は汽車がこちらに向かい,ホームには立ち止まる女がいる.白い蒸気が僅かに漂い,直前のタバコを吸う男からの連続性も見える.赤紙に招集された男は映りもせず,取り残された女が動き出す周囲に対して,中央に残された花のように孤独に震えているようにも思える.歌い出すように台詞を口にする人物たちとともに長めのショットは人物たちとキャメラとがともにダンスでもするかのように互いに位置どり,視線を交わし,触れ合い,入れ替わりながら動きを尽くしている.鏡の奥にはさらに鏡があり,関係が入り混じる.そして,歌いながらキャメラを見つめる人物たちがいる.わたしたち観客もこうしたダンスの場へと巻き込まれているのである.
雨が降り,雪が降る.街の彩りが少しづつ落ち,落ち着いていく,そのこともやはり幸福なのであろう.