これまで観たことがなく、後半の展開は予想外でした。
そもそも実在した一家の出来事をもとにしている事も知りませんでした。
今作(1966年公開)は、ミュージカル(1959年初演)が元で、その元ネタはトラップ一家のお母さん・マリアが書いた自伝(1949年出版)。一家がオーストリアを出て渡米したのが1939年。その直前の物語になっているので、当然ながら戦争の影が描かれています。もっとストレートに言うとナチスの存在。特に知識がないと楽しめないと言う作品ではありませんが、当時の人は時代背景をもっと理解している前提で観ていたかと思います。
そもそも山のビジュアルから私は勝手にスイスが舞台だと思っていました。オーストリアとスイスは隣り合う国ではありますが、今作の舞台であるザルツブルクはそちら側ではなく、ドイツとの国境近くにある街です。
オーストリアやザルツブルクといえばクラシック音楽のイメージ(ザルツブルクはモーツァルトの故郷)であり、劇中でもそのような言及があります。
しかしながら、近年ドイツのテレビ番組で「いちばん偉大なドイツ人は?」というお題でモーツァルトが挙げられて一悶着あったというほど、ドイツとオーストリアは歴史上の認識として境界がややこしいのだと思います。ちなみにヒトラーは出生地はオーストリアです。
オーストリアは第一次世界大戦の頃から激動の時代(そもそも第一次大戦の端緒はオーストリアの皇太子夫妻の暗殺です)。第一次対戦時は当然のようにドイツ側(同盟国)。多民族を抱える大国だったオーストリア=ハンガリー帝国では、戦争に伴う国力低下を背景にチェコやハンガリーが独立。1918年には、15世紀から続いたハプスブルク家系の帝国が消滅し、共和国体制に。
しかし保守派と社会主義派との対立で国内は安定せず、1930年代に入ると世界恐慌の影響も。隣国ドイツでナチス政権が成立すると、オーストリア国内から併合を求める声が上がり始めます。そんな中、オーストリアでファシズム政権が樹立しますが、首相の暗殺などを経て、1938年にはドイツに併合。99%を超す圧倒的な国民の支持を得ていたとのことです。
物語の舞台はこの時代であり、トラップ大佐はオーストリアの軍人。ナチスに反発した正義の人として描かれていますが、実際にはオーストリアのファシズム政権側の人であり、単に権力闘争に敗れた側だったという見方が一般的なようです。そのような点や、市民がナチスを受け入れていなかったと言う描写などが本国では批判的に受け止められ、ザルツブルク以外ではオーストリアでは今作は公開されていないそうです。
美しい風景が描写されていることもあり、今作はオーストリアにとってこの上ない宣伝になりそうではありますが。
そもそも、トラップ一家で音楽教育をしたのはマリアではないという一点で、今作はあくまで史実を元ネタにしたファンタジーであるわけです。
実際のマリアとトラップ大佐は25歳差でしたが、今作ではそれほど離れていないように見えます。演じているジュリーアンドリュースとクリストファープラマーは6歳差。
この配役により、ラブストーリー的な側面の違和感が薄まっているのは幸いだったかと思います。