硫黄島での戦いを日米双方の視点から描いた2部作の「父親たちの星条旗」に続く第2弾です。今回は、当初たった一週間で勝敗が決まるといわれていた硫黄島で、36日間も戦い続けた日本軍の指揮官、栗林忠道中将が家族に宛てた手紙をまとめた『「玉砕総指揮官」の絵手紙』を基に映画の原案が作られました。
映画は戦いから60年が経ち、硫黄島を訪れた調査団が地中から何百という数の手紙を発見するところから始まり、すぐに映像は1944年へと遡って行きます。今回は勝利した米軍と違い、生き残りはほとんどいない日本軍を描いているので、証言者は残された手紙ということになります。つまり手紙が語り部ということなので、前回うるさく感じたナレーションがなく、時間軸も「硫黄島の戦い」一つに集中しているので、全体的にわかりやすい構成になっています。
日本軍の最後の砦とも言える硫黄島で米軍を迎え撃つ準備をする日本軍。西郷(二宮)ら新兵たちは灼熱の太陽の下で砂浜に穴を掘る作業を続けていました。思わず口に出た愚痴が上官の耳に届き、理不尽な体罰を受ける新兵たち。そこに現れたのは、新しく赴任して来た栗林中将(渡辺)でした。アメリカ留学の経験を持つ彼は、無意味な精神論が幅を利かせる軍の体質を改め、合理的な考えのもと、今までとは全く違った作戦を考え出します。死ぬとわかっている辛い任務に絶望を感じていた西郷らは、栗林の進歩的な考え方にかすかな希望を見出すのでした。
前作の「父親たちの星条旗」の最初のクライマックスは米軍の硫黄島上陸場面でしたが、その時の日本軍は姿の見えない無気味な存在として登場していました。今回はその日本の兵隊が生きた存在として描かれています。日本の指揮官が海外での生活体験も長い親米家で、家族思いの父親でもあったこと、兵士の中にはオリンピックで乗馬の金メダルを取った国際人もいたこと、そして兵士一人一人も大切な家族に別れを告げて戦地に赴いたこと等など。
そんな中で特に印象深かったのは、元憲兵の青年(加瀬)と軍の近代化を推し進める栗林中将に反発する青年(中村)との対比でした。犬も殺せない優しい青年と、最後まで玉砕を叫ぶ軍国青年、対照的な2人ののもろさが良く出ており、戦争の不条理がリアルに伝わって来ました。
また、当時の日本庶民が貧しいなか、お上からの命令で財産を取り上げられ、戦争に駆り立てられたかが、よく描かれていました。元憲兵の青年の言う「犬が悪いのではない(全ては戦争のせい)」という言葉が印象に残ります。日本刀による断首が名誉な死に方であること、多くの兵隊が靖国で会おうと誓って死んで行った事に理解を示しているのを見て、「良く勉強しているなあ」と内心驚きましたし、前作で起こったさまざまな出来事の答とも言える箇所が随所に見られ、その絶妙なバランス感覚にも感心した次第です。
なお、この戦いで日本軍は壊滅的敗北を喫したわけですが、全員が死んだわけではありません。果たしてどの兵士が生き残れることが出来たのか、ハラハラしながらご覧になってみてください。全体的に殆どが戦争場面なだけに、物語の悲劇性がストレートに出ていて、ちょっと不謹慎な言い方かも知れませんが、戦争映画としては大変面白い作品となっています。
(2006/12/22 記)