昭和二十三年、東大法学部はじまって以来の秀才と言われた隅田光一が、同級生の鶴岡七郎、九鬼善司、木島良助らと設立した金融会社「太陽クラプ」は世相に巧みに乗じて急成長をとげたが、一年後、隅田が闇金融容疑で検挙されたことから崩壊の道をたどり、隅田は焼身自殺した。隅田を焼きつくす炎を見ていた鶴岡は犯罪者として生まれ変わる決意を胸に秘め、手形金融業「六甲商事」を開き、法の死角と盲点を突いた完全経済犯罪をもくろむ。一億円の融資を求めている新陽汽船に目をつけた彼は、「日本造船・重役」なるこセ者を仕立てあげ、徹底した演技指導を行う。知りあいのヤクザ太田洋助の輩下30名が税務所員に扮して日本橋のとある会社を訪れ、脱税容疑捜索と称して全員を応接室に閉じこめた。室内は一瞬にして「日本造船・東京支店」に変わり、そこへ木島が新陽汽船の専務を連れてきて、ニセ木下重役が応接する……。鶴岡の綿密な脚本と演出の勝利だった。参考人として、鶴岡は警察に出頭を求められるが、犯人はニセ木下であり、彼は善意の第三者にすぎない。大手を振って署を出る鶴岡。しかし、東京地検の福永検事は鶴岡にただならぬ犯罪の匂いを感じとるのだった。次に鶴岡は、大和皮革専務上松に、やはり綿密な脚本と演出で罠を仕掛けた。鮮やかに上松から五千万円を騙し取った鶴岡の次のターゲットは川前工業。しがし、鶴岡のトリックを見破った福永検事は彼を詐欺罪で拘留する。状況証拠のみで、自分の自白がないかぎり、つかまらないことを知っている鶴岡は福永に不敵な笑いを浮かべるのだった。その頃、鶴岡の妻たか子は、夫と芸者綾香との関係を知り、また、夫拘留のニュースにショックを受け、流産してしまい、鉄道自殺を遂げる。木島の身代りの自首で釈放となった鶴岡は、妻の死の悪夢にうなされながらも、彼は福永検事に挑戦すべく次の大仕事に取りかかった。彼はエルバドル共和国公使館の公使秘書、ゴンザレスを仲間に引き入れ、治外法権の公使館を舞台に五つの会社を相手に、大詐欺を仕掛け、総額三億七千万円をせしめた。騙された会社側が大騒ぎをしている頃、ゴンザレスは外交官特権で帰国してしまい、鶴岡は会社とゴンザレスの仲介をしたにすぎず、警察も手が出ない。ところが、事件が闇につつまれようとしている頃、帰国したはずのゴンザレスが日本にまい戻ってきたのだ。ゴンザレスは逮補され、鶴岡に捜査の手が伸びるのも時間の問題となった。福永検事の執念は燃えた。しかし、そのはりめぐらされた手配の網の目をくぐりぬけ、鶴岡はまたしても、逃げおおせるのだった。