佐田千重子は京呉服問屋の一人娘として何不自由なく美しく育った。千重子は中学生のとき、父母から実子でないことを知らされた。祇園の夜桜の下に寝かされていた赤ん坊があまり可愛いので、悪いと知りながら盗んだと母は言うが、千重子は信じない。しかし、千重子と父母の関係は、実の親子以上に愛と親しみで結ばれていた。千重子は幼馴染の真一にだけ、自分の身の上を打ち明けた。それは彼女が真一に好意を持っていたからだ。父の太吉郎は問屋の主人でありながら名人気質で凝った地味な仕事で返品が多かつた。千重子はそんな父の着物が好きだった。ある日、千重子は友だちの正子と、清滝川沿いの北山杉の村に行くと、自分とそっくりな村の娘に出会い驚いた。暫くして、祇園祭に賑わう宵山の晩「御旅所」にお詣りに行った千重子は、そこで、七度詣りをしている瓜二つの娘と再会する。「……あんた、姉さんや、神様のお引き合せどす」と苗子というその娘は千重子の手を握った。苗子と千重子は双児の姉妹だった。二人の父は北山杉の職人で、生活苦で千重子のほうを捨てたが、間もなく杉から落ちて死に、母もつづいて病死した。孤児になった苗子は北山杉の持ち主の世話になり、今もそこで働いている。苗子は、環境の違う姉の幸福をこわさない心づかいで、雑とうの中に姿をかくした。その時、苗子を千重子とまちがえた織屋の秀男は、彼女に帯を織らせてほしいと頼む。仕方なく承知する苗子。一方、千重子は真一に声をかけられ、兄の竜助を紹介された。八月の末、苗子と再会した千重子は、決心して、二人のことを父母に打ち明けた。父母は温かく苗子を家に迎えてもいいと言う。千重子は秀男にも本当のことを話し、妹のために帯を織ってほしいと頼む。秀男は千重子との約束の帯を苗子に届け、そして結婚を申し込んだ。苗子は、そんな秀男の申し出に、自分の中に千重子の面影を求めていることを読みとった。一方、千重子は、自分を愛する竜助が、父に廃嫡を承知させて求婚してきた意志に惹かれて、申し出を承知した。粉雪が舞う夜、苗子が千重子を訪れた。床の中で千重子は妹に言った。「苗さん、私は私。どっちの幻でもあらしません。好きな人がいやはったら結婚おしやす。私も結婚します」夜明けに帰る苗子を見送った千重子は「また、来とくれやすな」と声をかける。しかし、首を振る苗子。苗子は、結局二人は別々に生きるより仕方がない運命を知っていた。千重子はべんがら格子戸につかまって長いこと見送った。苗子は振りかえらなかった。