流れをせきとめられ、油のにじむどぶ川の上に、立ち並ぶ飲食街。梅子はこの下町のバーに勤める女給であった。父の事故死以来、母親と二人の弟をかかえて水商売の世界を転々として、三十六歳の今日まで、一家を支えて来た。梅子が十九歳の時生んだ娘竹子も、今では立派に高校へ通っていた。茨の道を歩んだ梅子だが、その表情は陽気で楽天家であった。だがその梅子も、よる年波には勝てず、ライバルすみ江との口喧嘩は、きまって嫉妬の入り交った感情が原因であった。そんな梅子にバーテンの藤井は新橋で古美術商を営む権藤を紹介した。よるべのない孤独なおとなしい女というふれこみであったが、彼女のヒモになろうとした藤井は梅子に断わられると、権藤に梅子の素性を暴露し、この話は失敗に終った。梅子の一家の住む都営住宅には、三畳と六畳の二間に、母親の松子、弟の治郎と妻の貞代と二人の子供、治郎の弟三平、それに梅子の娘竹子と八人家族がひしめきあっていた。母親や弟達は、梅子のふしだらな生活を「世間体が悪い」と梅子母娘につらくあたったが、竹子は持前の朗らかさで母親を「梅子さん」と呼ぶ明るい娘であった。ある日、貞代の兄の栄作が上京して、梅子の家に滞在した。竹子の、のびのびとした肢体に魅かれた栄作は、その夜、竹子に挑みかかった。なにもかもいやになった竹子だが、梅子は知ってか知らないでか、あいかわらず酒に酔っていた。その頃、どぶ川の区劃整理で、梅子の働く店もとられ、梅子は、バーの仲間にそそのかされ、竹子が学校で借りて来たテープ・レコーダーを使って、情事を録音して、飯のたねにしようとたくらんだ。そんなある日、梅子は、かつての恋人辰岡に再会した。辰岡はマグロ漁船の船長であった頃、梅子と知り合い恋に陥ちたが、今はヤクザになり下っていた。一夜を共にした辰岡は梅子の事情を聞くと、母娘の面倒を見ようと言った。朝鮮人金子の抵当に入っている店を、改造して梅子達に住わせてやるというのだ。だが甘い話にのった梅子が、金子と温泉に行った留守に、辰岡は金子の家を乗っとり、梅子の代りに辰岡の女が采配をふるっていた。今日も酔って帰って来た梅子を竹子は「こんな親なんか死んでしまえ」と泣き叫びながら家を飛び出した。梅子の必死に追う姿があとにつづいていた。