圭子はバー“ライラック”の雇われマダムである。ある日、外国人のマスターに呼ばれ売上げの減ったことを責められた。経済研究所長という肩書を持つ高級利権屋の美濃部が最近店に寄りつかなくなったこと、その美濃部が以前圭子の下で働いていたユリに店を持たせていること、圭子はすべてを知っていた。マスターから暗にユリのように体を張れと言われた。夫に死なれて、女手一つで生きていかなければならなくなった圭子が、マネージャーの小松の口ききでこの道に入ったのは五年前であった。圭子は、バーの階段を上る時が一番悲しかった。しかし、上ってしまえばその日その日の風が吹いた。美濃部が現われ、ユリの店へ案内した。店は繁昌していた。ユリが席をはずした隙に、美濃部は圭子をゴルフに誘った。--圭子は店を変えた。小松と、女給の純子がいっしょについて来た。関西実業家の郷田が、店を持たせるからと圭子に迫った。彼女は上客に奉賀帳を回して十万、二十万と借りて店を持つことを決心した。小松もいっしょに貸店を探して歩いた。--ユリが狂言自殺をするつもりで誤って本当に死んでしまった。葬儀の席で、美濃部が貸金の返済を執拗に迫っていた。圭子はそ知らぬ顔で現れた美濃部にくってかかった。圭子は酒と興奮のためか血を吐いて倒れた。胃潰瘍だった。佃島の実家で、クリスマスと正月を過したが、七草が過ぎるともう寝てもいられなかった。おかみのまつ子が集金の催促に現われ、兄からは息子の小児マヒを手術する金を無心されたのだ。圭子はまた階段を上った。プレス工場主の関根の誠意だけが身にしみた。いつか奉賀帳を回した時も、気持よく十万円出すことを約束してくれた。圭子はプレス工場のおかみさんにでも喜んでなろうと、関根に抱かれた。やっと幸せが来たのだと思った。しかし、関根は二度と現われなかった。圭子は酒におぼれた。銀行支店長の藤崎と一夜を過してしまった。が、藤崎は翌日大阪の支店へ転勤になると言いながら、十万円の株券を置いて去った。小松が入れちがいに入って来て、圭子の頬を打った。彼女は小松のいっしょになってくれという言葉を空虚な思いで聞いた。--圭子は試練に耐えて生きていかなければならない。新しい明日をめざして、今日もバーの階段を上って行った。