昭和二十四年四月、ルソン島の日本軍は全戦域にわたって潰滅状態にあった。相次ぐ兵の脱兵に焦燥した幹部は、すこしの理由でもどしどし処刑をおこなった。原住民の娘チエともども奥地の集落に脱走した花田軍医逮捕の命を帯び、部下の高城伍長を引具して密林に分けいった宇治中尉も、さし迫る全滅の運命からのがれたい思いは同じだった。むしろ親友花田の行動性を羨望した。が、命令に忠実な高城と一緒では、脱走もかなわない。やがて二人は密林の中のニッパ小屋で花田と女を見つけたが、宇治の喀血で命令遂行はしばらく不可能となる。花田は心をこめて宇治を看護した。するうちに、脱走兵の一団が彼らに加わるが、命令の遂行にあせる高城は、彼らを射殺する。夜、花田との生活をまもるため宇治を刺そうと忍んできたチエは、彼と争ううちに宇治のはげしい情熱に負け、抱擁をかわしてしまった。翌日、チエは花田に事を告白する宇治を狙撃したが、弾はあやまって花田の脚を傷つけてしまう。嫉妬と怒りにまかせ花田はチエを殴りつけたが、その直後、彼らの姿は集落からきえた。高城は追跡することを迫るが、すでに脱走を決意した宇治は、東海岸さして歩きだした。必死に翻意をもとめる高城。二人が原始林に囲まれた湖の岸に出たとき、突然花田とチエが拳銃をかざしてあらわれる。(不発だ)と思う間もなく宇治の拳銃が火を吐いた。応射するチエの弾に宇治ともども倒れながら高城の放った弾は彼女をも射ぬいた。